売り上げあんまり大きくないんだけど・・・、法人成した方が良いの?

ご相談者様データ

桜田さんご夫婦

夫:35歳  

妻:30歳   

子供2人

リラクゼーション

所得:500万円(青色申告控除後)

ご相談内容:まだ売上が少ないけど、法人設立した方が良いですか?

桜田さんはご夫婦でリラクゼーションサロンを営んでいます。

二人ともフランチャイズのサロンから独立し、ご夫婦で自宅を改装し始めました。

独立するときに法人を設立するかどうか迷っていましたが、税理士から「利益が少ないうちはまだ法人成りはしないほうが良い」と言われたので個人事業でひとまず開業することにしました。

しかし、その後国民健康保険料の支払いが高く、税理士からも税金の支払準備のために積み立てをしておくことを薦められ、税金の高さに驚いていました。

そんなときに桜田さんと異業種交流会で知り合い、お話しすることにしたのでした。

国保も高いし、税金も結構掛かりそうで・・・

税理士さんからは法人成はまだ早いって言われたんですが、どう思いますか?

早いってことは無いと思いますよ。

法人成のメリットは税金だけじゃないので。

色々手間が掛かったりコストも掛かりますが、メリットはあると思いますよ。

法人成のメリット

法人成のメリットの一つは、まずは税理士さんが言ってた税金のメリットがあります。

個人事業主の場合、売上から経費を引いた金額が利益(所得)になって、利益の中から事業主の生活費やプライベートで使うお金を「事業主貸」っていう形で払っていますよね。

はい、そうですね。

だから経費にはならないんですよね・・・?

そうですね。

なので、事業の利益と事業主の生活費等が合算されて、税率も高くなりがちなんです。

しかも、税率は最大で55%です。

一方、法人を設立して、役員報酬という形で受け取ると役員報酬は全額法人の経費として引くことができます。

なので、会社の利益と社長の報酬を合計して課税されていた分を分けることができるようになります。

それに、役員報酬は「給与所得控除」を受けることができるので、単に法人と個人で利益を分散できるだけでなく、会社員のときのように給与で受け取ったときと同じ税制を使うこともできるんです。

なので、法人成りすることによって税金が安くなるということになります。

なるほど、そういう理由だったんですね。

ってことは、やっぱりうちみたいにまだまだ所得が低いとあんまり意味ないってことですか?

税金面でもメリットはありますけど、法人成りすると税金の申告が個人よりも面倒ですし、税理士さんへの報酬が変わったりするのでその点も含めると税金だけでは法人成りのメリットはあまり無いとも言えますよね。

でも、その他のポイントに注目してみましょう。



厚生年金に加入できる

メリットは税金面だけでなく、「厚生年金に加入できる」という点もあるんです。

厚生年金ですか・・・

自営業は年金が少ないって言いますけど、法人成りすれば厚生年金に加入することができるようになるんですね。

はい、加入義務なので法人の代表者は役員報酬0にならなければ加入する必要があります。

具体的には、仮に役員報酬の月額を30万円で設定して、これから桜田さんが65歳になるまで保険料を支払ったら、厚生年金は年間で60万円くらい増えることになります。

それに、もし桜田さんに万が一のことがあった場合の遺族年金も充実しますし、「加給年金」と言って桜田さんが65歳になったときに奥さんが65歳になって年金を受け取り始めるまで年間39万円を受け取れます。

厚生年金の計算式:平均標準報酬額(1か月あたりの平均年収)×5.481/1000×加入月数

→ 簡単にすると・・・   平均年収 × 0.0055 × 厚生年金に加入する年数

月収30万円≒年収360万円だと・・・ 

計算式: 360万円 × 0.0055 × 30年 = 594,000円

そんなに増えるんですね!!

でも、社会保険料が高いって税理士さんから聞いたんですが・・・

はい、たしかに役員報酬の設定の仕方によっては高くなります。

でも、逆に桜田さんの場合は逆に安くなると思いますよ。

今年の見込みで考えると、来年の税金、社会保険料はこのようになります。

年間の所得は約500万円(妻に専従者給与を80万円支給、青色申告55万円の控除後)。

妻は夫の事業の経理を担当。夫婦共に国民年金保険の第一号被保険者、国民健康保険に加入。

うわ~、こうして見てみると税金と社会保険料って高いんですね・・・

そうですよね。

開業当初は特に負担に感じますよね。

では、桜田さんがもし法人を設立した場合の税金、社会保険料を概算ですが試算してみましょう。

役員報酬・夫180万円、給与・妻88万円(第三号被保険者として夫の扶養に追加)。自宅の一室をサロンとして使っているため、毎月家賃として4万円代表者である夫に支払う。生命保険料、法人から個人型確定拠出年金の掛け金を拠出。法人利益200万円で計算。出張旅費規程導入

これは仮にですけど、奥さんを扶養に追加すれば厚生年金保険料と健康保険料の支払が不要になりますので、こうやって税金、社会保険料を減らすことも可能ですよ。

え?!

全然違う!!

はい、そうなんです。

ちょっとした仕組みの違いだけなんですが、これだけの差が出ることもあります。

それに、さっきお話したように厚生年金の受取額が増えますし、その他に桜田さんにもし万が一のことがあったときの保障も、ケガや病気で働けなくなってしまったときの保障も増えるんですよ。

税金面だけでみるとあまりメリットが無いようにも感じますが、将来の年金も増えるし、役員報酬の設定の仕方などによってはむしろ社会保険料の節約効果もあります。

他に、やはり法人設立しているとしっかりビジネスとしてやっていきたいっていうように認識されるので信用アップしますよね。

デメリットは?

反対に、デメリットとしてはこんなことがあります。

たしかに、個人事業主よりも手間は掛かりますよね。

・税金の申告が複雑
法人の確定申告は、個人の確定申告よりも書類が多く複雑です。個人の確定申告を自分で行っているひとも、法人となると難しい場合も多いでしょう。その場合、税理士に依頼するか、会計ソフトのオプションである「申告サービス」などが必要で、その分コストが増えることがあります。

・赤字でも7万円の住民税の支払いが必要
法人の場合、赤字でも法人住民税均等割で年間7万円が必要になります。

・従業員に社会保険(厚生年金、健康保険)への加入義務が発生する場合がある

といったことがあります。

でも、年間の節約額考えると大きいですよね・・・

そうですね。

実際、私も売り上げがほとんど無いときにもう法人設立しましたし、実際法人成りしてみて「損した!」ってことはありませんね。

実際、税理士さんに頼んだ方が良いのは個人事業主でも一緒ですしね。

しっかり事業として取り組んでいきたいようであれば致命的なデメリットと思う点も無いと思います。

それに、どんどん売り上げが大きくなったら役員報酬もそれに合わせて上げて、社会保険料のメリットは薄くなりますが、税金のメリットが今度は大きくなりますよね。

ありがとうございました。

色々メリットあるんですね。

社員もそのうち雇いたいですし、しっかり事業としてやっていきたいので法人成りを考えたいと思います。

ご相談を終えて

その後、桜田さんは法人を設立しました。

副産物として、住民税非課税世帯に該当したために、コロナ渦での補助金の対象になったり、3人目のお子さんが生まれた際には保育料が安くなるなどのメリットも受けることができました。

法人設立するのは利益が出てからという考え方が一般的ですが、そうでもありません。

売上が少なくてもこのように役員報酬の調節により社会保険料の負担や税金の負担を減らすことができますし、利益が出れば税金面でのメリットが大きくなっていきます。

このように、どのタイミングでも法人成りによってメリットは得られますので、ご自身のケースに置き換えて考えてみてもよいのではないでしょうか。

この記事を書いた人
小川 洋平

経営者のお金と時間のゆとりを創る、資産形成のプロ

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