ご相談者様DATA
【年齢】 45歳
【職業】 会社員
【性別】 女性
【家族構成】 夫(会社員、48歳)と子ども2人(18歳、16歳)
相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)
林FPとは、とある勉強会で知り合いました。いろいろ話をする仲です。
夫は子どもを可愛がってくれはしますが、相手をしてくれることは滅多にありません。
家事を手伝ってくれないのはもちろん、休みの日は自分の趣味やお付き合いが優先です。
結婚してからもずっと共働きできましたが、子どもが小さい頃は、両方の親の協力がなければ仕事と家庭の両立は出来ませんでした。
共働きで自由になるお金が多いためか、夫は金遣いが荒く散財します。
それどころか、子どもの学費にと掛けてきた学資保険を、勝手に解約して使ってしまったこともありました。それからは、私名義で学資保険は掛けるようにしました。
未だに、夫は給与明細や源泉徴収票を見せてくれません。
家に入れるお金も少なく子どものお金も使い込むことから、給料が少ないと思っていました。
しかし、上の子どもが高校に進学する際に課税所得証明書を取ったら、思っていた以上に所得があることが分かりました。
それを知って、夫にもう少し家庭にお金を入れて欲しいと言ったら、大げんかになり、夫は出て行ってしまって暫く家に帰って来なかったこともありまました。
子どもは2人います。
義両親の敷地内に我が家があります。義両親は子ども達をとても可愛がってくれているので、子どもがそれぞれ結婚し独立するまでは家族を守っていきたいと思います。
自分の老後資金を増やそうとiDeCoを始めました。iDeCoは60歳までは引き出せない。誰にも出せないので、夫に引き出される心配も無い。
ただ、一つ心配なことに気付きました。
もし私が万が一の時には、私のiDeCoは相続人である夫と子どもが相続するのでしょうか。
私が一生懸命貯めたお金、これはなんとしても夫が受け取れないようにしたいのですが、なにか方法はありませんか?
金融機関の担当者には、配偶者がいれば配偶者しか受け取れないと言われたのですが、やはり無理なのか、確定拠出年金に詳しい林FPに聞いてみました。
ご相談でお話しした内容
死亡一時金の受け取り人は指定できます。
加入者がお亡くなりになられた時は、お亡くなりになられた方のiDeCo口座の資産(個人別管理資産)は、ご遺族に死亡一時金として一括で支給されます。
具体的には、ご遺族が死亡一時金の裁定請求をします。
この受取が出来る「遺族」ですが、加入者ご本人が予め受取る人を指定しておくことが出来ます。(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹のいずれかに限ります。)その場合には、指定された方が受取人になります。
指定が無い場合は、以下の様に法令に基づいて順位が決められています。この順位は相続の場合と違い、実際の生計維持関係が重視されます。配偶者は事実婚も含まれます。
順位 | 死亡一時金 | 相続 |
1 | 配偶者(事実婚含む) | 配偶者 |
2 | 死亡した者の収入により生計を維持されていた 子・夫母・孫・祖父母・兄弟姉妹 | 子(孫などの代襲相続人) |
3 | 2以外の死亡した者の収入により生計を維持されていた親族 | 両親・祖父母等の直系尊属 |
4 | 2以外の子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹 | 兄弟姉妹(甥姪などの代襲相続人) |
同順位の場合は、並びの順番になります。又、同順位が複数いる場合は、人数により等分されて支給されます。
受取人を指定した場合は、法が定める順位が下でも優先されます。
相続の場合は上位の者が相続放棄をしないと下の順位の者は相続人になれませんが、iDeCo(確定拠出年金)の死亡一時金については、加入者が指定しておくことで受取人になります。
例えば、ご相談者様が万が一の時の受取人をお子様にした場合は、お子様が受取人になります。
相続の場合、配偶者がいれば全てお子様だけに相続させることが出来ず、配偶者に遺留分が発生します。又、上位の者が相続放棄をしなければ下の順位の者が相続人にはなれません。
しかし、iDeCo(確定拠出年金)の死亡一時金については、受取人に指定された人が全て受け取ることができるため、全てお子様に残すことが出来ます。
※確定拠出年金法第41条(遺族の範囲及び順位)より
請求時期によって税金の取扱が異なります
iDeCoの死亡一時金は、請求する時期によって税金の取扱が異なります。
死亡から3年以内に請求をすれば、みなし相続財産として取り扱われます。この場合、500万円×法定相続人の数までは非課税になります。
3年を超えて5年以内の請求の場合は、受取人の一時所得となります。総収入から収入を得るための費用と特別控除の50万円を引いて、結果をさらに1/2にしたものが一時所得の金額です。
しかし5年を超えてしまうと死亡一時金を受け取る遺族はないものとされ、相続財産とされます。非課税枠や控除が使えなくなります。
通常、金融機関が預金者の死亡を知ると、遺族からの申し出がなくても口座を凍結しますが、iDeCoの加入者が死亡した場合は、運営管理機関に遺族から連絡しないと死亡一時金請求の手続き書類は送られてきません。
よって、iDeCoに加入していることを受取人に事前に伝えておくことが大切です。同居の場合は、年に1回、10月頃に払込証明書が送られて来るため、郵便物で気がつくかもしれませんが、伝えるのが難しければ、遺言書やエンディングノートの活用も良いでしょう。
子どもが未成年の場合はどうする?
iIDeCo(確定拠出年金)は、配偶者より優先して子どもに死亡一時金を渡すことが出来ます。お子様の頭数で等分します。
ご相談者様のお子様は18歳と16歳でいらっしゃいます。上のお子様は進学のために4月から一人暮らしされるとのことなので、通帳の管理は大丈夫でしょう。下のお子様につきましても自分名義の通帳をお持ちなので、もし死亡一時金を受け取ったら、勝手に引き出されないように御祖父母様に管理をお願いすると良いかもしれません。
(※令和4年4月1日より、18歳成年となります。)
ただし、子どもが未成年の間に死亡一時金が発生した場合、実際に資金の受け取り手続きをするのは、子どもの親権者である配偶者になります。
それが心配なら、子どもの為に使ってくれる信頼できる人、例えば、父母や兄弟姉妹を受け取りにする方法もあるでしょう。
ただし、この場合に注意する事があります。
みなし相続財産として500万円×法定相続人の控除が使えるのは、受け取るのが相続人の場合であるということです。
相談者様の場合は、配偶者とお子様が法定相続人になります。御父母様は、お子様が相続放棄をしない限り相続人になりません。お子様も御父母様も相続人とならない場合でないと、ご兄弟姉妹は相続人にはなりません。よって、父母が受け取ると相続人以外の受け取りになるので、みなし相続財産として扱える法定相続人の数に応じた控除は使えません。
少し複雑に思われると思いますが、お子様が成年になるまでは資産の使い込みを防ぐことを第1に考え、税制優遇がなくてもご両親を受取人にされることも、対応策の一つになるでしょう。またお子さんが成長したら、確定拠出年金も含めたお金のことを伝えていくと良いと思います。
ご相談を終えて
令和4年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられます。満18歳から自分で契約行為が出来るようになります。
相談者様が懸念されていたこと(下のお子様がご相談者様の死亡一時金をご自分で受け取ること)が、2年早く解消されます。
ところで、お子様が普段扱っていない桁のお金を扱うことになるかと思います。
いきなり桁が違うお金が入ると、財布の紐が緩みがちになります。また、一度ゆるんだ財布の紐は中々締まりません。そのために、浪費癖が付いてしまい収入以上の支出をしてしまうことになりかねません。
支出をカバーするため、「何とかしなくては」と、楽に稼ぐことに目を向けやすくなります。その結果、詐欺案件に引っ掛かってしまうことがあります。
社会に出たばかりの若者を狙う輩が大勢います。注意が必要です。
契約は、成立した後では、どちらかが一方的に破ることは出来ません。双方の合意が必要です。未成年であれば取り消しが出来る事もありますが、成年過ぎると契約行為に責任を持たなければなりません。
ご相談者様は、一人暮らしをする上のお子様についての心配もされてましたが、何はともあれ、お子様と話せる関係性を作っておくことが大切です。(お子様が独り立ちが出来るまでは、アンテナを張っておきましょう。)
次回は、身を守る為の「お金についての考え方」についてお話しすることになりました。