こんにちは、企業型確定拠出年金の導入に特化したFP ✕ 社労士の白井章稔です。
企業型確定拠出年金導入のご提案をさせて頂く際にお客様から『中小企業退職金共済も検討したことがあるけど、どうなの?』というご相談をいただくことが多いです。
そこで中小企業退職金共済(以下、中退共)の制度内容を解説しつつ、確定拠出年金との違いを2回にわたり、説明していきたいと思います。
そもそも、どんな企業が加入できるの?
中退共は 独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する中小企業のための退職金制度です。歴史は古く、昭和34年に設けられた制度で加入企業は37万7千所、加入者数362万人(令和3年11月時点)となっています。
中退共に加入できる企業は、業種ごとに資本金・出資金の額か、従業員数のどちらかの基準を満たす必要があり、条件は下記の表のとおりとなります。
業種 | 条件 |
一般業種(製造業・建設業等) | 常用従業員数300人以下、または資本金・出資金3億円以下 |
卸売業 | 常用従業員数100人以下、または資本金・出資金1億円以下 |
サービス業 | 常用従業員数100人以下、または資本金・出資金5,000万円以下 |
小売業 | 常用従業員数50人以下、または資本金・出資金5,000万円以下 |
基本的に、この要件はカバーできると思います。ちなみに法人だけでなく、個人事業でも加入することができるので、例えば士業事務所やクリニック・歯科医院でも大丈夫です。個人事業主には資本金という考え方がありませんので、常時使用される従業員数の条件を満たせばOKです。
どんな人が加入できるの?
中退共の加入対象者(被共済者)はその企業で勤務する従業員です。全員加入が原則とされていますが、下記のように入社後、間もない従業員や、契約期間が決まっている従業員、あるい労働時間が短い従業員は加入対象外とすることができます。
①期間を定めて雇用される方
②季節的業務の雇用される方
③試用期間中の方
④短時間労働者
⑤休職期間中の方
⑥定年などで相当の期間内に雇用関係が終了することが明らかな方
なお、中退共は従業員にとっての退職金制度であるため、役員・経営者・事業主は加入できません。(ここ重要です!)
中小企業退職金共済に加入している従業員は、社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入することはできません。
掛金はいくら積立てられるの?
掛金は16通りから選べる
月々の掛金は下の表のとおり5,000円~30,000円の範囲で16通りの選択肢があります。事業主はその中から、従業員ごとに金額を任意に選択することができます。
また、週30時間未満の短時間労働者(パートタイマー等)の場合は特例として2,000円、3,000円、4,000円の中から選択することも可能です。
掛金は全額非課税
掛金は全額事業主が負担することになりますが、その掛金は法人の場合は全額損金扱い、個人事業主の場合は、必要経費として全額非課税となります。つまり、節税効果があるというのがポイントです。
「退職金」という、まとまった大きなお金を計画的に蓄えておくというのは結構大変ですよね。
定年退職であれば、従業員の定年のタイミングに合わせて資金準備をすることも可能かもしれません。しかし、定年前に途中で退職される場合は退職金として急な出費を伴うことになり、企業にとっても資金繰りの悪化を招く可能性もあります。
将来的な債務を負うことなく、月々積み立てることができ、毎月の損金に計上することができるのは、非常に大きいですよね。
掛金の増減について
掛金の変更については、加入後、「月額変更申込書」という書類を提出することでいつでも変更することができます。
ただし掛金の減額については、従業員にとって労働条件の不利益変更に該当しますので、下記のいずれかの条件を満たす必要があります。
・掛金の減額について従業員の個別の同意をえること
・現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合
中退共加入のメリット
①掛金が全額損金算入
繰り返しになりますが、毎月の掛金が損金計上できます。従業員の10年後、20年後、30年後のために債務を負うのは経営上、1つのリスクとなります。それを回避することができるのは非常に大きいですね。
②国が掛金の一部を助成してくれる
国の助成には、①新規加入助成と②月額変更助成があります。
新規加入助成
新規で中退共に加入すると、加入後4ヶ月目から1年間、掛金の半分(従業員ごとに上限5,000円まで)が国によって助成されます。
月額変更助成
従業員の掛金を増額する場合、増額する月から1年間、従業員の掛金月額が18,000円以下であれば、増額分の3分の1が国によって助成されます。(20,000円以上の掛金月額からの増額は、助成の対象にはなりません)
助成期間中は、掛金月額から助成額を控除した金額だけ納付することになります。
※出典『中小企業退職金共済制度しおり 詳細版』
③制度設計が比較的カンタン
一般的に退職金制度を構築する、と考えると『社会保険労務士のような外部のコンサルタントにお願いをして、高い報酬を払って完成・・・』なんてイメージがありませんか?
中退共は掛金の幅も限定されており、入社歴や役職に応じて掛金月額を決めるだけなので、複雑な計算式を考えたりする必要がありません。
「従業員が長く働いてもらえるように、まずは退職金制度を導入したい」と考える経営者に向いています。
④提携割引サービスが利用できる
中退共加入企業の特典として、加入者は、中退共と提携しているホテルやレジャー施設等を割引料金で利用することができます。従業員のために、福利厚生制度を充実させたいけど、資金面で厳しい、、、という中小企業にとっては嬉しい特典ですね。
中退共加入のデメリットは?
①経営者は加入できない
中退共はあくまで従業員にとっての退職金制度となるため、役員・個人事業主は加入できません。
そのため、社長や役員・個人事業主が利用できる制度としては小規模企業共済、個人型確定拠出年金(iDeCo)、企業型確定拠出年金を検討していいと思います。
②加入期間が短い場合は退職金が不支給となる
加入後、掛金の支払いを開始して12ヶ月未満で退職してしまった場合、退職金は全額支給されません。
つまり、掛金分そのまま損をしてしまうことになります。
また、12ヶ月以上24ヶ月未満で退職した場合、退職金の支給額は掛金納付の総額を下回ってしまいます。
加入期間が24ヶ月以上になると、掛金総額の100%を受け取れるようになります。
ちなみに、加入期間が3年7ヵ月以上になると、運用利息分が加算され、掛金納付額を上回るようになります。
中退共のホームページでは加入月数や掛金の金額を入力するだけで簡易的な試算することもできますので、活用してみるのもいいでしょう。
③掛金の減額が簡単にはできない
掛金の減額を行いたい場合、従業員の同意が必要になります。仮に従業員の同意が得られない場合、厚生労働大臣の認定が必要になります(現在の掛金月額の継続が著しく困難であるという認定手続きが必要になります)。
④直接従業員に支払われる
従業員が退職した場合、請求によって退職金は本人の指定する口座に直接支払われます。事業主が代理で受け取ることはできません。
また、退職の理由に関係なく支払われることになります。
会社の手元資金や保険の解約返戻金を原資として退職金を支払う場合であれば、懲戒解雇等、従業員の退職理由によって減額することも可能ですが、中退共の場合は厚生労働大臣に認定を受ける必要があります。
事業主が希望する減額金額が従業員にとって過酷と認められるときは、中退共がその金額を変更をする場合もあります。
また退職金の減額が認定されたとしても、その減額分は中退共によって没収されることになります。
ここが中退共の最大のデメリットと言えるでしょう。
まとめ
今回は、中退共について制度の特長やメリット・デメリットについてご紹介しました。
退職金制度を導入したい、と考えたときに制度導入がしやすい半面、加入期間が短いと全額掛け捨てになる、直接従業員に支払われるという、特長をご理解いただけたと思います。
また、20年、30年の期間にわたって1つの会社で働くという概念がなくなりつつ、中退共は活躍の仕方が重要になってきます。
次回のコラムでは、中退共と企業型確定拠出年金の比較についてご紹介します。