白井 章稔

あなたは乗り越える!?「年収の壁」について解説

こんにちは、企業型確定拠出年金の導入に特化したFP ✕ 社労士の白井章稔です。

2023年も残り3ヶ月を切りました。
今日はこの時期から年末にかけて問い合わせが増える、パートで働く方の扶養の問題、
いわゆる『年収の壁』について、解説をしていきたいと思います。

年収の壁とは?

「年収の壁」とは、配偶者の扶養に入り、パートなどで働く人が一定の年収額を超えると、
配偶者の扶養から外れ
税金や社会保険料の負担が発生し
手取り収入が減少する現象
を指します。

具体的には、年収が103万円や130万円などの特定の額を超えると、
住民税や所得税が発生し、さらには社会保険料の負担も増えることとなります。

短時間労働で、仕事と家庭とのバランスを取りながら働いているパート労働者は、
この壁に直面することがよくあります。

特にこれからの年末シーズンは年収の壁が存在することにより、
扶養から外れることを避けるために、通常月よりも働く時間を調整していく傾向があります。

ただでさえ人材不足と言われている中で、
この年収の壁、企業にとっても大きな影響を与えています。

それだけではありません。
年収の壁は、企業だけでなく配偶者の収入にも影響を与える可能性があります。

例えば、パート労働者が年収の壁を超えてしまうことで、配偶者特別控除、という所得控除が減少します。

企業によっては家族手当など、会社独自の手当の受給資格がなくなることもあり、世帯主の年収が減少
ということもあります。​

年収の壁は日本の税制や社会保険制度と密接に関連しており、
これらの制度は労働者の働き方や企業の人材管理戦略に大きな影響を与えています。

この記事では、年収の壁の背景と、
9月27日に発表された政策である「年収の壁・支援強化パッケージ」について見ていきたいと思います。

年収の壁の具体例と壁を”超えた”場合の影響

まずは年収の壁について見ていきたいと思います。

年収の壁には「税務上の年収の壁」「社会保険上の年収の壁」があります。
年収ごとに一覧表にまとめてみました。

まずは税務上の年収の壁から確認していきましょう。

税務上の年収の壁

100万円の壁

年収が100万円を超えると、住民税がかかります。
しかし、この段階では所得税はかからず、社会保険への加入も必要なく、世帯主の扶養からも外れません。

103万円の壁

​年収が103万円を超えると、住民税に加えて、本人負担の所得税がかかるようになります。
また、配偶者控除が「配偶者特別控除」に切り替わります。
これにより、世帯全体でみると、税金の負担が増加する可能性があります。

150万円の壁

年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の額が段階的に減額され始めます。
150万円までは配偶者特別控除を満額(38万円)受けられますが、
150万円を超えると収入の増加とともに控除額が段階的に減額されます。
これにより、税負担が増えるため、手取り収入が減少する可能性があります​。

201万円の壁

年収が201万円を超えると、配偶者特別控除の額がゼロになります。
そのため、世帯全体の税負担が増えることになります。

社会保険上の年収の壁

106万円の壁

ここからは社会保険上の年収の壁について見ていきます。

一定規模(注1)の企業に務める方の年収が106万円を超えると、
社会保険(健康保険、厚生年金)への加入が必要になります。

現時点で社会保険の被保険者数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)の企業で働く場合、

①週の所定労働時間が20時間以上
②月額賃金が8.8万円以上(注2)
③2ヶ月を超える雇用見込みがある
④学生ではない

上記4つの条件を満たした場合に社会保険の加入対象となります。

(注1)一定規模とは
2023年10月時点、法人全体での厚生年金の保険者数が101人以上という条件です。
2024年10月からはこの下限が51人以上まで引き下げられます。
従業員数ではなく、社会保険の被保険者数でカウントします。
また、複数の支店や事業所があっても、法人全体でカウントします。

(注2)月額賃金8.8万円に含まれる内容
8.8万円の金額には基本給及び諸手当を含み、残業代、賞与、臨時的な賃金は含まれません
諸手当には精皆勤手当、通勤手当および家族手当は含まれません

130万円の壁

年収が130万円を超えると、社会保険への加入義務が発生します。
週の労働時間が30時間以上(常勤の4分の3以上)である場合は、勤務先での社会保険へ加入する義務が発生します。
勤務先に社会保険制度がない場合は、自分で国民健康保険や国民年金へ加入する必要が出てきます。

年収の壁・支援強化パッケージとは?

年収の壁を超えることにより、税負担や社会保険料の負担が増加するため、
短時間で勤務するパート労働者は、これからの年末にかけて労働時間を調整する傾向にあります。

政府は、これらの年収の壁の問題解決のために制度の見直しに取り掛かり、
2023年9月27日に年収の壁・支援強化パッケージを公表しました。

年収の壁を超えることによる税金や社会保険料の増加を緩和することで、
労働者の手取り収入を維持し、労働市場の流動性を向上させることが期待されています。
以下、この支援強化パッケージの具体策を詳しく解説します。

106万円の壁への対応

パート・アルバイトで働く方の厚生年金や健康保険の加入に併せて
手取り収入を減らさない取組を実施する企業に対し、労働者1人当たり最大50万円の支援をします。

キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設

従来からある企業向けの助成金「キャリアアップ助成金」に新しいコースが新設されます。

106万円の壁を超えた場合、既述の通り、パート労働者本人の社会保険料負担が発生します。

                       厚生労働省「年収の壁・支援パッケージ」リーフレットより引用

上の例では、106万円の壁を超えたことにより、社会保険料の負担が16万円発生しています。
これにより、手取りが90万に減少します。
この本人負担の保険料相当額16万円を、企業が別途手当として本人に支給したり、
あるいは賃上げで補填する場合、最大3年間、1人当たり50万円が企業に対して助成されます。

労働者本人は年収の壁を超えても今まで通りの手取りがキープできる、というメリットがありますし、
企業側は、手当や賃上げで補填したお金を助成金で補いながら、今まで通りの労働時間で働いてもらえる、
ということになります。

社会保険適用促進手当を標準報酬算定から除外する

(これはちょっと難しい話になります。。。)

パート労働者の手取りをキープするために、企業が手当(社会保険適用促進手当と呼びます)を支給する場合、
通常であれば、この手当(上の図で言う手当16万円)にも社会保険料がかかります。

平たく言えば、手当増加によって月給が増えるので、昇給分も社会保険料を負担しなさい、というのが
法律上のルールなのですが、今回はそれを2年間算定対象外とする、という特例が適用されます。

社会保険料は本人だけでなく、事業主も負担しますので、
これによって労働者と事業主双方にとっての経済的負担を緩和されることになります。

130万の壁への対応

事業主の証明による被扶養者認定の円滑化

パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすことにより、
収入が一時的に上がっても事業主がその旨を証明することで、引き続き、社会保険上の扶養のままでいられる
という仕組みが作られます。

被用者保険の被扶養者認定においては、
認定対象者の年間収入が130万円未満であることが要件とされています。
しかし、一時的な収入増加により年収の見込みが130万円以上となる場合でも、
被扶養者認定を直ちに取り消さず、将来の収入見込みを総合的に判断する方針が取られています。

配偶者手当(家族手当)への対策

企業の配偶者手当(家族手当)の見直しが進むよう、見直しの手順がフローチャートで示される予定です。

パート労働者が働きすぎて年収の壁を超えると、その配偶者の勤務先から支給される配偶者手当(家族手当)が
ストップするケースがあります。
そのため、一定の収入要件がある配偶者手当は、社会保障制度と共に、就業調整の要因となっています。

令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話合いの中で、配偶者手当の見直しが議論されるよう、
見直しの手順をフローチャートで示すなど、資料の作成と公表が行われる予定です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は、年収の壁の種類とその壁を超えたときにどのような負担が増えるのかについて解説をいたしました。

政府としても新たな政策を打ち出しながら
企業側、労働者側に不利益がないよう、動いていくようです。

しかし、あくまでこれは時限措置となります。
2025年の年金法改正に伴い、抜本的に制度が変わる可能性もあります。
働き方や世帯全体の収入、そして将来的な社会保障も含めて考えていく必要があるかもしれません。

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