こんにちは、企業型確定拠出年金の導入に特化したFP ✕ 社労士の白井章稔です。
企業型確定拠出年金のご提案をさせて頂くときに
お客様から『中小企業退職金共済も検討したことがあるけど、どうなの?』
というご相談をいただくことが多いんですね。
ということで前回は中小企業でスタンダードな退職金制度=中小企業退職金共済(以下、中退共)の
特長とメリット、デメリットをお伝えいたしました。(まだの方はこちらをチェック!)
今回は、続編として企業型確定拠出年金と中退共について共通点と違いを見ていきます。
中退共と企業型確定拠出年金 共通の特長
まずは、中退共と企業型確定拠出年金の共通点です。
前回の振り返りにもなりますが、大きくは
① 掛金が損金になる(費用になる)
② 債務がない
③ 本人に直接支払われる
となります。
当然ですが、退職金は社員が退職したときにキャッシュアウトします。
定年退職であっても、中途退職であっても、
社員各人のタイミングに応じて、あらかじめ資金を準備していなければなりません。
これは経営者にとっては大きな心的ストレスになりますよね。
それが、10年後、20年後といった、長期的な債務を負うことがなく、
毎月の費用に計上しながら積み立てができる。
そして、中退共であれば、本人が退職した時、
企業型確定拠出年金であれば、60歳以降で直接受け取ることができる。
これは2つの制度に共通するポイントですので是非、知っておいてください。
中退共と企業型確定拠出年金の違い
ここからは、中退共と確定拠出年金の違いについて見ていきます。
まずは、ポイントを一覧表にまとめてみましたので、全体感をつかんでみましょう。
中退共 | 企業型確定拠出年金 | |
掛金の上限 | 月額30,000円 | 月額55,000円 |
制度設計の自由度 | ある程度、形式的 | 事業主拠出・選択制など自由度高い |
導入のしやすさ | 簡単 | 時間がかかる(概ね6か月) |
積み立て状況の確認 | 年に1度 | いつでも どこでも |
退職金の金額 | 固定 | 自分自身で運用可能 |
役員の加入 | できない | できる |
では、ここから1つずつ、ポイントについて見ていきたいと思います。
掛金の上限
まず、掛金の上限・下限と選択できるパターンを見ていきたいと思います。
中退共、確定拠出年金、どちらの制度も導入するときに
「誰に」「いくら」積み立てていくかを決める必要があります。
その決め方と範囲ですが、
中退共・・・最低月額 5,000円~30,000円 16通り
企業型確定拠出年金・・・最低月額 3,000円~55,000円 54通り
と大きな違いがあります。
企業型確定拠出年金は3,000円から1,000円刻みで金額設定ができ、かつ上限も55,000円までと幅が広いのが特長です。
これにより、勤続年数や職責によって個人ごとに金額を決めることができます。
一方の中退共は16通り(短時間勤務者は19通り)なので、
掛金設定の幅広さとしては企業型確定拠出年金が優れていると言えるでしょう。
制度設計の自由度
制度設計の自由度という点でも、企業型確定拠出年金が優れています。
中退共の場合、事業主が掛金を拠出するパターンしか選べません。
一方、企業型確定拠出年金は
① 全額事業主が拠出する
② 社員が自らの給与の一部を原資として拠出する(選択制)
③ ①+②の組合せ
④ 事業主の掛金に上乗せして、加入者が一定の条件で掛金を拠出する(マッチング拠出)
と、企業の経営方針に応じた柔軟な制度設計が可能です。
導入のしやすさ
導入のしやすさ(導入までの手間や期間)は中退共が優れています。
中退共の場合、金融機関や、委託事業主団体(商工会議所や青色申告会など)を通じて
退職金共済契約の申込みをすることで、加入ができます。
また、社内の手続としては退職金規程を作成し、従業員代表者の意見を聴取して、
労働基準監督署に届出することで退職金制度が導入できます。
手続としてはそれほど大きな工数がかからず、制度導入ができることがメリットです。
一方、企業型確定拠出年金の場合は、金融機関や保険会社、確定拠出年金の代理店を通じて厚生局に届出を行います。
導入にあたっては就業規則の変更、従業員説明会、投資教育など、行うべき業務が多々あります。
また加入までに約6ヶ月程度の期間がかかるところもポイントです。
積立て状況の確認
『一生懸命働いてくれる社員のため』と思って、せっかく導入した退職金制度。
ところが、せっかく毎月積み立てているのに、
今の時点でいくら積み立てをしてくれているか知らない、わからない。。。
このような話、実は珍しくありません。
もっと言うと、『そもそもうちの会社に退職金制度あったんですか?』
とせっかくの制度自体が社内に知られていなかったり。。。
中退共の場合、事業主へは、年に1回(5月頃)、従業員毎に
「掛金納付状況票、退職金試算票」が送付されてきます。
従業員には「加入の状況のお知らせ」として個別に従業員へ配布することで
今、いくらの積み立てがあるのかを周知することができます。
・・・が、面倒なので、実際は配られていない会社もあったり。。。
これではせっかくの福利厚生制度がもったいないですよね。
企業型確定拠出年金であれば、いつでも、どこでも、オンラインで確認ができます。
事業主がいくら積み立てをしてくれているのか、積み立て状況を確認できます。
また、次のポイントでも書きますが、資産の運用状況も確認できるんです。
これって、社員にとってはすごく嬉しいことですよね。
退職金の金額
中退共で将来もらえる退職金は基本退職金+付加退職金を合計した金額となり、これが退職金として支払われます。
基本退職金・・・掛金月額と納付月数に応じて固定的に定められている金額で、制度全体として予定運用利回りを1.0%として定められた額です。なお、予定運用利回りは、法令の改正により変わることがあります。
付加退職金・・・基本退職金に上積みするもので、運用収入の状況等に応じて定められる金額です。
一方の確定拠出年金については加入者自ら商品を選択し運用することが可能です。
運用商品は元本確保型と元本変動型の投資信託から選ぶことができ、いつでも資産配分の変更やスイッチングが可能です。
配分変更・・・毎月の掛金で購入する運用商品の配分を変更することです。配分変更は無料で行えます。また、毎月の拠出日前であれば何度でもやり直すことができます。
スイッチング・・・これまで積み立ててきた資産の商品構成を変更することです。商品の売却と購入はその時点の時価で行われます。
自分の意志で将来の受取額を増やすことができる(可能性がある)、というのは非常に大きいのではないでしょうか。
役員の加入
これは、中退共と企業型確定拠出年金を比較する上で、最大のポイントです。
企業型確定拠出年金をご提案をして多くの経営者が驚かれるのが、
確定拠出年金では役員も従業員と同様に個人に対して掛金を拠出することができる点です。
条件は従業員と同様で、掛金は全額損金計上で給与所得の計算外となります。
そのため、
・役員報酬とは別に、将来の資産形成をしていきたい
・会社で出した利益を、税制優遇を受けながらお得に個人資産に移転したい
といったご要望にも応えられるのが企業型確定拠出年金の大きな特長です。
また、仮に経営する会社が倒産して自己破産をしたとしても、法律で差押えが禁止されています。
確定拠出年金は老後の年金を補充するという側面もあるため、生活に必要最小限のものとして残るのです。あくまで万が一の際の話ですが、経営者にとってはひとつの備えになりますので、嬉しい話ですよね。
中退共については前回の記事・中退共のデメリットでも書いているように、事業主は加入することができません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、中退共と企業型確定拠出年金の違いについて解説させていただきました。
制度導入に一定の時間と工数はかかるものの、制度の柔軟性を考えると、企業型確定拠出年金に軍配が上がると思います。
加えて、役員=つまり経営者自身も加入できる、というのが最大のポイントです。
私がこれまで導入をお手伝いした企業様でも、従業員の福利厚生充実のためだけでなく、
役員1名のみからでも導入されるケースもあり、皆様がお得に将来に向けて積み立てを行われています。
これから、従業員の福利厚生を検討されたい経営映写の方は是非、ご検討ください。