五十嵐 義典

年金の繰上げ受給は慎重さが必要!

ご覧の皆さま、こんにちは。

年金というフィールドで、相談業務、教育研修、制作(執筆・編集等)、調査研究という4領域で活動中、年金のポリバレント・井内(いのうち)です(※ポリバレントとは、サッカーで複数のポジションをこなせる選手として使われている言葉です。)。

先般、『週刊社会保障』(株式会社法研様)3月15日号の「スキルアップ年金相談」にて65歳前の老齢年金の繰上げ受給と障害年金の請求について執筆いたしました。

そちらで執筆した内容は少々専門的なものも含まれていますが、65歳からの老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)を65歳前に前倒しで受け取る繰上げ受給をするにあたっては様々な注意点がありますので、今回ここでその注意点を整理いたします。

①繰り上げると年金が一生涯減額

繰上げ受給をすると1か月につき0.5%減額されることになっています。65歳からの年金を60歳開始で受け取ると60か月繰り上げることになりますので、30%減額されます。

2022年4月からはこれが1か月0.4%減額に変わり、60歳繰上げで24%減額になる予定ですが、減額があることには変わりありません。

この0.4%減の対象になるのは、1962年4月2日以降生まれの人になりますが、いずれにせよ、繰上げ受給すると減額率による減額が一生涯続くことになります。

一生涯の受給累計額で見て、繰上げしない場合(65歳受給開始)の額が繰上げした場合の額に追いついて逆転する時が来るでしょう。

これは比較的よく知られていることかと思いますが、注意点はこれだけではありません。

②繰上げは基礎年金・厚生年金同時

老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り上げなければなりません。

そして両方が減額されることになります。

受給開始を遅らせて年金を増額させる繰下げ受給とは異なり、どちらか片方だけ、というのはできません。

なお、付加年金が受けられる場合は付加年金も同時に繰上げとなり、一方、加給年金や振替加算は繰上げになりません。

➂老齢基礎年金を増やすこともできなくなる!?

過去に免除や猶予を受けた国民年金保険料は10年以内に納付することができます(追納制度)。

本来追納すれば、年金額が増えることになりますが、繰上げ受給をするとこの追納ができなくなります。

また、20歳から60歳までに、免除・猶予・未納期間があって40年間の納付がない場合、本来老齢基礎年金が満額に達するまで(あるいは最大65歳まで)国民年金に任意加入できますが、繰上げ受給を行うと任意加入はできませんし、任意加入中は繰上げができません。

④障害年金の請求もできなくなる!?

障害等級2級の障害基礎年金老齢基礎年金の満額と同じ額(2021年度:780,900円)になりますが、障害基礎年金が非課税、老齢基礎年金は課税な上、老齢基礎年金はたとえ満額であっても、そこから減額率によって減額されることになります。

従って、障害基礎年金の額が高くなります。

老齢基礎年金を繰上げ請求すると、より金額の高い障害基礎年金が受けられなくなることがあります。

60代前半で持病のある人は、もしかしたら現在あるいは今後障害年金の対象となるかもしれませんので、この点の理解が大切です。

遺族厚生年金とどちらか選択

老齢、障害、遺族と種類の異なる年金はいずれか選択受給になるのが原則です。

繰上げ受給した老齢年金を受け始めた人が遺族厚生年金の受給権が発生した場合、まず65歳まではいずれかの年金を選択受給することになります。

繰り上げた自身の老齢年金と比べ、遺族厚生年金のほうが金額が高いとなると遺族厚生年金を選択受給しますが、そうなると繰り上げた老齢年金は65歳まで受給できません。

そして、65歳以降については、例外的に、(1)老齢基礎年金と(2)老齢厚生年金、(3)老齢厚生年金相当額を差し引いた遺族厚生年金で併せて受給できますが、繰り上げた老齢年金は引き続き減額されたままとなります。

寡婦年金も受給できない

自営業の夫が亡くなった場合の寡婦年金は繰上げ受給の老齢基礎年金を受けていると、受給できません。

以上のように、繰上げには注意点があり、一度繰上げ請求すると取消しができませんので、慎重に決める必要があります。

年金事務所等の窓口で繰上げ請求する際にはその注意点について説明も受けることになっていますので、その中身をよく理解した上で請求が必要でしょう。

【これまでの実績】——————-●年金相談は4000件以上経験、●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向けなど。●執筆は通算250本以上!『週刊社会保障』の「スキルアップ年金相談」(法研様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、月刊『企業年金』の「知って得!公的年金&マネープラン」(企業年金連合会様)。●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。●その他、動画「人生とお金の悩みを解決!たった5分のお金の学校」に出演。

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