事業者情報
事業者名 | I社 |
導入制度 | iDeCo+(イデコプラス) |
社歴 | 100年以上 |
加入時期 | 2020年 |
従業員数 | 10名 |
業種 | 不動産業 |
所在地 | 東京都 |
インタビュー
昔は退職金が人材を確保するための大きな材料になったが今は違う
御社のことを教えてください
不動産の賃貸業です。商業用のテナント向けにビルを貸し出しています。
企業年金や退職金制度はありますか?
iDeCo+は2020年から新規で導入しました。退職金制度は従来からあります。
iDeCo+に関心を持った経緯を教えてください
iDeCo+のことは給与体系の改定も含めて、福利厚生制度を再検討する中で知りました。
今までは中小企業にありがちな、ワンマン会社だったんです。給与を決めるにしても、昇給を決めるにしても、恣意的なところがありました。でも、将来の人生設計をするには、「部長になったらこのくらいもらえる」ということを明らかにすべきだと思いました。それで昇給給与テーブルというものを作り、もらえる金額と評価をわかりやすくしました。
退職金制度は終身雇用で長く働いた人が得する制度です。昔は退職金が人材を確保するための大きな材料になりましたが、今は違います。
上場企業では退職金がDC(確定拠出年金)に振り替わっていますが、うちの会社でDCを導入するのは大きすぎる。iDeCo+のことは知っていたし、社員の中にも知っている人がいました。iDeCoを個人的にやっている人は、自分で勉強しています。会社にも「ぜひ入れてほしい」というので検討を始めました。
iDeCo+導入を決定した要因は何でしょうか?
会社の福利厚生の一環として、社員が働くモチベーションの向上と、老後の生活の一助となればと思ったためです。うちの会社は、会社負担金も月1万円と、他社に比べても多い方だと思います。
制度から入るのは難しいので「入りたい」と意識付けるところからはじめる
iDeCo+導入にあたって配慮した部分はありますか?
iDeCo+の導入も「これは、あなたたちのためになる話なんですよ」と理解してもらわないといけません。会社から援助が出るけれど、お金は天引きされていく。そのお金は貯金ではなく、すぐに使うこともできない。それは損じゃないか、みたいな話になってしまうと、iDeCo+はうまくいきません。
iDeCo+にはいろんなメリットがあるということを、十分に理解したうえで「入りたい」と意識付けるところからはじめないと、制度から入るのは無理だろうと思いました。
みなさんの意識が大事ということですね
そうなんです。一番はそこです。社員たちから会社に対して「ぜひiDeCo+に入ってください」「会社が検討してください」と話があれば、制度を導入するのはとても簡単だと思います。
もともとiDeCoをやっている社員さんもいらっしゃったということですが、そうでない方は仕組みをよくわかっていなかったのでしょうか?
そうですね。もう二極化していました。iDeCoを知らない人たちには、まず「iDeCoとは何か」というところからはじめました。山中さん(相談ねっと代表FP)に来てもらってお話を聞きましたが、その前にある程度のことは伝えておかなくてはいけません。
「iDeCo+ってどういうものなんだ」「あなたたちの将来のためにやるものです」と。福利厚生の一環としてやるということを、理解してもらう必要があります。しかし、制度の話が中心になると、「私に何の関係があるんだろう」となります。とくに若い方は将来、厚生年金がなくなるのではと考えている。
「将来と言っても、その時になってみないと」という人にも考える機会を与えないといけません。私みたいな歳になり「あの時にああしていれば」となっては困ります。
iDeCo+導入により、社員が自分の将来について考える、いい機会になった
iDeCo+を導入する際の手続きについて教えてください
全体では3カ月程度かかりましたが、おおむね当初の予定通りに進みました。手続きといってもやり方は1つです。だから丁寧に1つずつ進めました。
iDeCoの説明、どこで口座を開くのか、個人が行う手続きはなにかなど、いっぺんにやってもわからないから、まずは何をして、それができたら次にこれをしてね、という形で進めました。
逆にその辺をしっかりやっておかないと、いつまで経ってもやらない。任意の制度ですから、意識を向けてあげないと手続きもなかなか進まないですよね。会社のために今日やらなきゃいけない、というものでもないですし。
社員が自分で決めるのがiDeCo+ということでしょうか
はい。iDeCo+は全て個人の年金口座になります。だからこそ、制度は知っていても、なかなかやろうと思わない、煩雑さもあるんでしょうね。役員さんになると、退職金や年金がもらえるから、iDeCo+について考えようとも思わない。
でも、正直なところ退職金が払えるかどうかわかりません。あくまでも会社が払える状況であれば、初めて払えるというものです。iDeCo+を導入する際の説明の場では、そういったことも伝えました。会社が潰れたらゼロだからねと。そうすると、やはり自分で責任持ってやったほうがいいじゃないかとなります。
少しずつ意識を転換したということですね。退職金よりiDeCo+のほうが社員さんご自身のためになるのがメリットなのでしょうか自分で決めるのがiDeCo+ということでしょうか
そうですね。今はだいぶ違ってきたんでしょうけど、退職金をなくしたり終身雇用制度を止めたりする会社も出てきています。将来に対する不安は、どんどん広がっているでしょうね。厚生年金も下がってくるし、となると自分の身は自分で守るということになる。
だからこそ、いま我々が若い人たちに「こういう選択肢があるからね」と伝えてあげることが大切です。
iDeCo+を導入したことが、社員が自分の将来について考える、いい機会になったと思います。
私が「今日の株価は?」と聞いたら、みんな答えてくれますよ。
自社にiDeCo+を導入してから気づいたことはありますか
まずは一人ひとりが投資信託を理解しなくてはと感じました。投資は毎日の相場に一喜一憂するのではなく、長期的に見ることが大切なのだと。
社内での評判はいかがですか
上々ですね。ときどき、社員同士で株や経済の話をするようになりましたよ。私が「今日の株価は?」と聞いたら、みんな答えてくれますよ。やはり、自分の損得のことになると真剣に考えますよね(笑)
不動産業界は業界そのものが経済の最先端ですよね
おっしゃる通り、業界的な部分もあります。20代や30代前半はいいけれど、30代後半や40代になり、中間職に就くようになったとき、株や経済の話が話題になってもまったくついていけないというのは、相手からもなめられます。最低限は知っていないといけないですよね。
とくに経営者の方々と話すときに、そんなこともわからないような人は、相手にしてもらえません。私も、色々とうちに売り込みに来る人たちと雑談を交わすと、その人の見識が分かります。その中で、株や経済の分野の見識が狭いというのは、あまりよろしくありませんね。
不動産は大きなお金が動きますしね
はい。商談の中では多くの決断をしないといけないですから。ほかの仕事でもそういう部分はあると思いますが。やはり広く知っておくことは、社会人としては必要なことでしょうね。
制度自身は自分で調べてやろうと思えばできたんでしょうけどね。今回は若干の経済的余裕があったから会社として、山中さんにセミナーもお願いができました。でも、そうではない会社もたくさんあります。そこに、どうやってiDeCo+を伝えていくかということかなと。
確かにこの制度も、なかなか広まってはいないですよね
あまり知られていないでしょうね。中小企業には、企業型確定拠出年金(DC)は費用面でもハードルが高い。その点iDeCo+は、導入はしやすい。でも、退職金は社員から見ると、自分で何も負担せずに溜まっていくものですが、iDeCo+は自分で溜めていくという意識が必要になります。
「社員の将来がよくなりますよ」ではなく、「会社に優秀な人材が残りませんよ」と考える
お知り合いの会社にも薦めやすいですか?
業種を問わず、人材確保のための手段としてよい制度だと思います。会社としていろいろな制度を整え、長く働ける環境を作らなければ優秀な社員を採用できない。採用できたとしても残ってくれない。そのための手段の1つとしてiDeCo+を導入する。
お金がなくても会社は潰れますが、人材がいなくても潰れるのが会社です。いかに優秀な人材を確保して、いかに辞めさせないか。最近ではSNSを使った就職もありますが、若い人たちはそういうのにも抵抗ないですよね。
そんな人たちを引き止めなきゃいけないというとき「お給料を上げます」ができれば一番いいでしょう。でも、それはなかなか難しい。そんなときに「うちはいろいろな制度を持っていますよ」と伝えればいい。
転職する人というのは、将来に向かって考えているから転職をするわけです。そういった人たちを引き止める1つの方法として、iDeCo+という制度を持っているのは、ある意味で会社に必須なことだと思います。
会社からiDeCo+に対して補助を出していますとなれば、社員たちも「この会社にいてもいいかな」という気持ちになるのではないでしょうか。
人がいなくても会社は続きませんよね。そのあたりに悩みのある社長さんなどに、iDeCo+といった制度があるよと教えてあげる人も、なかなかいないのでしょうか
そうですね。人間はみんな年老いていきますが、経営をしていくうえで人材の確保というのは、今日やらなくてはいけない話ではないと思われがちです。問題はずるずる伸びていき、後継ぎもいなくなる。
そんな会社、優秀な社員さんは辞めていきます。そうなったら会社は終わりですよね。優秀な人材は残さなければならないと考えると、会社自体も制度は充実していなければと考えます。
中小企業の社長さんは、「情報」をどのように捉えることが多いのでしょう
年配の方は別だと思いますが、自分で調べて指示をする人は、やはりネットを使いますよね。たとえばiDeCo+であれば、「iDeCo+ 制度」「iDeCo+ 相談」といったキーワードで検索するでしょう。相談を受ける側は、Webの面も充実していかないといけないでしょうね。個別で訪問や連絡をするというのも難しいでしょうし。
今の時代はやはりそれですよね
はい。あとはやはり、iDeCo+という制度があるんだということを、国などからも広く働きかけなくてはいけません。たとえば、iDeCo+を導入することで退職金制度を見直しできるなど経営者にとってのメリットを伝えるんです。
iDeCo+を入れて退職金をやめている会社もあります。DCに比べると会社が負担する金額が少ない点も活かして、理解を深めていく。
会社は退職金という債務を持つより、掛金を経費として計上した方がいいですしね
そういったメリットも、会社に伝えていくことが大切です。経営者もメリットを感じないと動きません。まずは自分の立場を考えてほしい。iDeCo+を導入すると「社員の将来がよくなりますよ」ではなく、「会社に優秀な人材が残りませんよ」と考えてほしい
です。「今の時代、制度の導入は最低限やっておくべき分野ですよ」と。
そのように話を持っていき、「退職金の見直しをしませんか?」と続ける。それからiDeCo+に限定せず、全体の給与や人事体系も含めた見直しをしませんかと伝える。「まずはここから」といった感じに薦めるのがいいと思いますね。
このたびはお時間をいただき、本当にありがとうございました
iDeCo+(イデコプラス)導入をサポートしたFPについて
山中伸枝(やまなかのぶえ)
www.nobueyamanaka.com
心とお財布を幸せにする専門家 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」講演、ライフプラン相談、執筆など多数。