選択制確定拠出年金のデメリットはこう計算する!

FP相談ねっと 代表山中伸枝 2021/3/1追記

給与減額型の選択制確定拠出年金はとてもたくさんの会社様が導入されているようです。掛金を給与から拠出することによる社会保障給付の減額については、下記の通り注意して周知する必要がありますが、社会保障給付の減額を希望しない方については、2022年以降iDeCo併用を活用することもご提案します。
iDeCo併用であれば、給与を受け取ったあとで掛金を拠出し、所得控除の税金メリットは「還付」という形で受取ります(違う方法もあり)。当然給与を受け取った際には、社会保険料は給与額に対して支払うので、社会保障給付はそのまま残ります。
ただ、会社からの掛金がまったくなく、従業員の「給与減額」しか掛金拠出のオプションがない場合、iDeCo併用をしたい場合少なくともある程度給与減額をした上で掛金を拠出必要があります。具体的には35,000円までは会社としての掛金(給与減額分は会社拠出となる)、iDeCo併用は20、000円までとそれぞれ上限が設定されるので、バランスも考える必要があります。
いずれにしろ、確定拠出年金は賢く活用したいところですので、気になる方はぜひご相談下さい。

2020/2/14更新

自らの給与の中から確定拠出年金の掛金を拠出する「選択制」確定拠出年金(時には「給与減額型選択制」などと呼ばれることも)には、社会保険給付の減少というデメリットもあります。今回はその具体的なデメリットの計算方法を解説します。

選択制確定拠出年金とは?

最近本当に増えてきている「選択制」確定拠出年金。基本的には企業型確定拠出年金で、掛金の出し方に特徴があります。その特徴のために、社会保険料が軽減できると同時に社会保険給付の減少が起こりうるものです。

企業の福利厚生として、確定給付企業年金の更なる上乗せとして導入している企業もありますし、企業拠出をするだけの体力もない、あるいは従来の企業拠出に人事戦略的に魅力を感じない(どうしても年功序列的な掛金設定になってしまいがちですから)という経営者さんの理念などにより選ばれているのが「選択制」です。

まず最初に「選択制」ではない「企業型確定拠出年金」とはどういうものかをおさらいしましょう。

まず会社が従業員に「確定拠出年金掛金」を拠出します。拠出された掛金は、従業員個人個人の「確定拠出年金口座」に入り、従業員それぞれが運用します。会社が拠出する掛金は、給与のように社会保険料や税金の対象となりません。そのため、非常に有利に資産形成ができる仕組みとして注目されています。

「選択制」は企業の掛金とは別に(会社によっては、企業の掛金がない場合も)従業員が個人の給与を「減額」してそれを「確定拠出年金口座」に入金し運用する仕組みです。財形貯蓄をイメージすると良いと思います。要は給与の内訳を「今受け取る」か「将来の積立に回すか」選択するのが「選択制」です。ただここからが「給与減額」たるゆえんなのですが、従業員個人が出す掛金は、拠出したとたん「給与」ではなくなります。従って、社会保険料や税金の対象からはずれます。

これだけだと、さっきの会社が拠出する確定拠出年金掛金とどう違うのかを思うかと思いますが、「給与減額」前の給与が本来給与だとすれば(ややこしいですね^^;)当然そこにかかる社会保険料は負担すべきで、負担した社会保険料によるところの社会保険給付も本人が受けるべきであるという考え方からこれを「デメリット」と称しています。つまり、本来分との差がどの程度あるのかがわかれば、デメリットがどのくらいなのかが具体的に分かるわけです。

※2022年頃を目途に、選択制を使わずiDeCo(税制メリットは同じですが、社会保険変動がない)併用が認められるようになる見込みです。第10回社会保障審議会企業年金・個人年金部会

給与から掛金を拠出するといくら社会保険料が減るのか?

前述したとおり、給与から掛金を拠出する分は社会保険料の計算には含まれなくなります。なぜならば、その掛金は「今使えない」お金なので、算定対象とはならないのです。

社会保険料の計算に含まれないということは、その分毎月の社会保険料が安くなるということです。社会保険料とは具体的には、健康保険料、介護保険料、雇用保険料、厚生年金保険料です。

給与40万円の東京都在住の40歳会社員であれば、1か月の保険料は以下の通りとなります(平成28年7月現在)

健康保険料(介護保険料含む)23,657円

雇用保険料          1,600円

厚生年金保険料       36.547円

合計            61,804円

この方が選択制で将来に向けての積立を月3万円したとしましょう。

この3万円は社会保険料の計算に含まれませんから実質給与37万円となります。その場合の負担する保険料は以下となります。

健康保険料(介護保険料含む)21,926円

雇用保険料          1,440円

厚生年金保険料       33,873円

合計            57,239円

つまり1か月の社会保険料が本来支払うべき金額よりも4,565円も安くなるのです。

もちろんこれに加え所得税、住民税もかかりませんから「選択制」は加入者にとってもものすごく「お得」な制度なのです、仮に所得税率10%の方(年収600万円程度)であれば所得税3,000円も支払わずに済みますし、住民税はどこにお住まいでも年収に関わらず10%ですからここも3,000円の節税。合計すると1万円以上も支払いが浮きその分将来の貯蓄ができるという訳です。大きいですよね。

当然、同じ額だけ(雇用保険のみは企業負担が多いです)会社も社会保険料を払わずに済むわけですから、経営者サイドから見ても「選択制」が注目されるわけです。

でも、「選択制」のデメリットとして指摘される点は、社会保険料が減るということは給付も減るというところなのです。とても大事なことなので、検証しましょう。

健康保険給付の減額とは?

負担する健康保険料が減ることにより給付が減額するものは2つあります。

出産手当金と傷病手当金です。

出産手当金は産前・産後の98日間について、給与日額の約3分の2が支給される制度です。

傷病手当金は病気やけがで長期間働けない状態が続いた時に同じく給与日額の約3分の2が最長で1年半支給される制度です。

例えば月3万円の「選択制」確定拠出年金により実際に減額される給付はどのくらいなのでしょうか?

出産手当金、傷病手当金ともに以下のように計算します。

1か月の掛金 ÷ 30日 x 2/3

例えば掛金3万円なら、 30,000円÷30x2=666円。

つまり1日あたりの出産手当金、傷病手当金がそれぞれ666円少なくなってしまうということです。※2016年4月から直近12か月の平均の日額になりましたが、ここではそこまでの説明は割愛しますね。

出産手当金は予定日通りの出産であれば98日間の支給ですから、666円x98日=65,268円受給額が減りますね。

また、180日間傷病手当を受け取るとすれば、本来もらうはずだった金額より約12万円ほど給付が薄くなってしまいます。

万が一病気になった時に日額666円の不利益を被ることを良く思わない方は掛金を拠出しないという「選択」もできますし、等級が変わらない程度の拠出額で抑えるという「選択」もできます。

会社によっては、特別の理由(病気や出産など)の場合は、年の途中でも掛金額の変更を認めるとしているところもあります。あるいは、給与から掛金を拠出せず賞与から掛金を拠出できるところもあります。前者は社会保険給付の減少を抑制することが可能ですし(時期によりますが)後者であれば、健康保険からの給付はなにも減少しません。

※社会保険料は原則標準報酬月額を等級にならして計算されるので、掛金の拠出がある一定の範囲内であれば保険料も減りませんし、給付も減りません。

介護保険給付の減額とは?

介護保険は、保険料の支払い額が減額されることで被る不利益は一切ありません

※あるとすれば、所得に応じてサービスを受けた場合の自己負担が1割か2割かの分かれ目です。これは65歳以上の話ですから、拠出をしている段階で考える必要はありません。

雇用保険給付の減額とは?

雇用保険はどうでしょう?

基本手当(いわゆる失業手当)は賃金の40~60%です。

3万円の掛金を拠出したことによる基本手当の減額は以下のように計算が可能です(給付率を50%とした場合 年齢や勤続年数によりこの率は変動します)。

1か月の掛金 ÷ 30日 X 50%(ただし上限あり)

例えば掛金3万円なら、30,000円÷30x50%=500円です。

もう少し詳しくいうと、こんな感じです。

<給与30万円の方が会社を辞めた時と確定拠出年金の掛金を3万円拠出して、給与が27万円になった会社を辞めた時のいわゆる失業手当の比較>

給与30万円の賃金日額は1万円なので、失業手当の給付率が仮に50%であれば手当の日額は5,000円です。掛金3万円を拠出した後の給与27万円の賃金日額は9,000円なので同様に計算すると失業手当は4,500円です。

差額は500円ですね 。

仮に失業期間を100日とすると、掛金を拠出したことにより失業手当が5万円減額されることになります。転職をすぐにと予定している人は選択制での掛金拠出を今すぐにする必要はないかもですね。また転職をすると、確定拠出年金の資産の移換もしなければならないので手間もかかります。

※基本手当を受給するまでには7日間の待期期間と3か月間の給付制限があります(離職理由による)

介護休業給付は給与日額の40%の給付ですから、これも影響受けますね。

月3万円の拠出であれば、一日あたり400円です。

育児休業を取得を予定している場合は、掛金を拠出しない方がベターかもしれません。

なぜなら、育休を1年とるとすると最初の半年は給与日額の67%の給付、そのあとは50%の給付です。期間も長いので、結構な金額の差になります。

30,000÷30x67%=670円 → 180日取得すると仮定すると120,600円

30,000÷30x50%=500円 → 180日取得すると仮定すると90,000円

※女性が取得する場合は、出産手当金の受給終了後からの育休ですから日数が上記より短くなります。

また復職後時短をするなどといった場合、実際の給与額は下がるのですが社会保険料算出の等級はは出産前の等級のまま計算されるのである程度長期にわたり時短を受ける場合、確定拠出年金の掛金を拠出するより社会保険の将来の給付(具体的には老齢厚生年金)を重視した方が良いかもしれません。妊娠したら、掛金額を減額して本来の給与額に戻すあるいは、近づけるという対策を講じた方が良いかも知れません。あるいは出産をすぐに予定している方は復職してから掛金を拠出しても良いと思います。

老齢厚生年金給付の減額とは?

では年金はどうでしょう?※国民年金部分には全く影響はありません。

影響を受けるのは厚生年金だけですから、将来受け取る老齢厚生年金が、「選択制」を利用したことでいくら損をするのでしょうか?

これは、次の計算式で明らかになります。

毎月の掛金 x 5.481÷1000x掛金拠出月数

例えば月3万円の確定拠出年金を40歳の方が60歳まで20年継続すると、

3万円x5.481÷1000x240ヶ月=39,463円

65歳から受け取る老齢厚生年金が年間39,463円減ってしまうということになります。

このほか、遺族年金でいえば、上記で計算した金額の75%が減額です。

ご主人が確定拠出年金を選択制でしていると、亡くなった時に奥さんがもらえる遺族厚生年金が年間約3万円弱減ってしまうという状態になります。

また年金は障害年金という給付もあり障害1級であれば、損失は年間39,463円の125%です。

「選択制」で積立た老後資金とも比較が必要

このように社会保険は万が一のセーフティネットですから、確定拠出年金の掛金を給与の中から拠出する「選択」をすることにより、確かに不利益を被ります。これは事実です。

しかし問題は、その不利益の大きさです。

前述した減額される給付の中で、ほぼ加入者すべてに関わるであろう不利益は老齢厚生年金の減額です。

65歳から90歳まで老齢厚生年金を受け取るとすれば年間39,463円の不利益ですから合計986,580円ほどそもそも予定されていた金額よりも老後資金が少なくなるということです。

一方月3万円の掛金を20年拠出すると720万円のお金を貯める事ができます。

3%で運用できれば20年後約930万円の自分年金を60歳で受け取ることができます。

しかも一時金で受け取る場合、930万円のうち800万円は非課税で受け取り残りの半分約65万円が課税対象です(退職所得控除)。

ここにかかる税率は5%だから、税の負担は約3.3万円。

手取りは926.7万円です。

更に所得税率が10%、住民税10%、社会保険保険料15%と固定するとこれらを20年間払わずに済んできたわけですから、このメリットも計算する必要がありますよね。

所得税 3万円x10%=3,000円
住民税 3万円x10%=3,000円
社会保険料3万円x15%=4,500円

1か月あたり10,500円の削減ですから、20年だと252万円も得しているわけです。

本当の損得とは?

以上が「選択制」確定拠出年金のデメリットの計算方法です。

選択制確定拠出年金は社会保険の給付において不利益になることがあります!

これはその通りです。

しかし、実際会社の制度として選択制が導入されている会社も多いわけですから、そのおかれた環境の中で、失うものと得るものをちゃんと比較して自分なりの選択をすること、これが最も大切なことなのではないでしょうか?

私自身は、自分の将来に関する極めて重要なことを自分で「選択」できない人はそもそも確定拠出年金には向かないと思っています。

きびしいかも知れせんが、今おかれている国の状況を理解し、今後向かうべき方向における問題点も理解し自分で行動を起こせる人しか、長期の資産形成、自己責任での資産運用なんてできるわけがありません。

実際、会社が確定拠出年金制度を導入していても、無関心で、せっかくの有利な資産形成の仕組みを活用していない人も少なくありません。そういう意味では、ご自身の給与から掛金を拠出する「選択制」は、ご自身の意志をしっかりと確認するため良いことだと思います。

今回は「選択制」のご説明でしたが、会社によっては自己掛金の拠出方法としてマッチング拠出やiDeCoの併用を認めている会社もあるでしょう。それぞれにメリット・デメリットがありますから、それらを知ったうえで活用していただければと思います。もちろん確定拠出年金だけが選択肢ではありません。NISAや個人年金保険や、特定口座での投資信託などなど選択肢は様々あります。

他人から押し付けられた価値観で自分の生き方を変えるのではなく、ご自身の判断でしっかりこれからを考えていただければうれしいです。

世の中フリーランチはありません。どんなことにもデメリットがあります。それを上回るメリットがあるのであれば、やってみる価値は大いにあると思います。

いずれにしても、あなたの人生ですからあなたに「選択」の自由があります。

企業様へ

選択制を会社が導入する場合、上記デメリットをしっかり説明する義務があります。説明できないのであれば、導入を見送るくらいの覚悟はもちましょう。少なくとも、社会保険料削減メリットのみを強調するようなコンサルは信用してはいけません。

いずれにしても、確定拠出年金の導入は入れたらいいという問題ではありません。選択制に関わらず確定拠出年金は丁寧な説明と、個別相談などのフォローアップが最も重要です。

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