ご相談者様データ
(お名前)田中 恵子さん(仮名)50代 (両親と同居)
(職業)会社員
(家族構成)父80代、母80代、兄(別居)
相談しようと思ったきっかけ
私は80代の両親と同居しています。最近、保険代理店で一時払い終身保険を紹介してもらいました。
まとまったお金を一度に払い込む保険ですが、一定期間が経過すれば、解約しても払い込んだ保険料を下回らない金額を受け取れるという商品です。死亡保障もあり、お金を預けたままにするよりも増える可能性があると聞きました。
最近は物価が上がっていますし、預貯金だけではお金の価値が目減りしてしまうのではないかと心配です。投資には元本割れのリスクがありますが、この保険なら比較的リスクを抑えながらインフレ対策もできるのではないかと感じています。
両親にも、当面使う予定のないお金があるようです。せっかくなら、両親もこの保険に加入したらよいのではないかと勧めています。
ところが、母はあまり乗り気ではありません。「今のままで困っていないし、わざわざ保険に入らなくてもいいのでは」と言います。
私は両親の将来が心配ですし、少しでも有利な方法でお金を残しておいた方がよいと思うのですが、母を説得して加入してもらうべきでしょうか。
インフレ対策は大切。でも、必要以上に心配していませんか?
物価が上がると、同じ金額のお金でも買えるものが少なくなります。預貯金を中心に資産を保有している場合、物価上昇にお金の増え方が追いつかなければ、実質的な購買力は低下してしまいます。
そのため、インフレに備えてお金の置き場所を考えることは大切です。田中さんが、紹介された保険商品の特徴を理解し、ご自身のお金について考えるきっかけにされたことはよいことだと思います。
ただし、インフレ対策が必要だからといって、必ずしも新しい金融商品を購入しなければならないわけではありません。
まず考えたいのは、今後の生活にどのくらいのお金が必要なのかということです。
例えば、公的年金を受給していて、年金収入で日常生活費の大部分をまかなえている場合、預貯金は医療費や介護費用、住宅の修繕費など、まとまった支出に備える役割を果たしているかもしれません。
公的年金には、物価や賃金の変動を踏まえて年金額を改定する仕組みがあります。ただし、物価が上がった分だけ年金額が必ず増えるわけではなく、改定率が物価上昇率を下回ることもあります。
それでも、年金収入や預貯金の状況、今後の支出を確認すれば、インフレに対してどの程度の備えが必要なのか、具体的に考えやすくなります。
大切なのは、漠然とした不安から商品を選ぶのではなく、現在の資金状況を確認したうえで、必要な対策を考えることです。
一時払い終身保険は、何のために加入するのでしょうか?
一時払い終身保険には、死亡保障を確保しながら資産を保有できるという特徴があります。商品によっては、契約から一定期間経過後に解約返戻金が一時払い保険料を上回るものもあります。
例えば、夫婦のどちらかが亡くなった後、残された配偶者が高齢者施設に入居することになった場合の費用を準備しておきたい。あるいは、葬儀費用など、亡くなった際に必要となる資金を確保しておきたいといった死亡保障を活用する明確な目的があり、必要な資金を確保したうえで保険に加入するのであれば、一つの選択肢になると思います。
一方、特に使い道は決まっていないけれど、少しでもお金が増えたらよいという理由で加入するのであれば、もう少し慎重に考えたいところです。
保険は預貯金とは異なり、契約時にまとまったお金を払い込むことで、自由に使える資金が減ります。また、契約後の一定期間は解約返戻金が払込保険料を下回る商品もあります。
田中さんが紹介された商品も、いつから元本を下回らずに解約できるのか、その金額は確実に保証されているのか、途中で解約した場合はどうなるのかなど、具体的な条件を確認する必要があります。
さらに、保険である以上、保障にかかる費用なども考慮しなければなりません。解約返戻金が払込保険料を上回る時期が来たとしても、それだけでインフレ対策として十分とは限りません。物価上昇率と比較して、お金の購買力を維持できるのかという視点も必要です。
80代の親にとって「一定期間」は長いかもしれません
田中さんにとっては、数年程度お金を動かせなくても、将来元本を下回らずに解約できるのであれば、魅力的な商品に感じられるのかもしれません。
しかし、80代のご両親にとってはどうでしょうか。
例えば、5年後に元本を下回らずに解約できる商品だったとしても、80代の方にとっての5年間は、若い世代の5年間とは感じ方が違う可能性があります。
今は元気でも、数年後には病気や介護などでまとまったお金が必要になるかもしれません。必要になったときに、すぐ使えるお金が手元にあること自体が安心につながる方もいるでしょう。
また、長年にわたって貯めてきた預貯金を、これまで利用したことのない保険商品に移すことに抵抗を感じる方もいると思います。
母親があまり乗り気ではないのは、単に新しい商品に興味がないからとは限りません。自分のお金を自由に使える状態にしておきたい、これまでどおりの暮らしを続けたいという思いがあるのかもしれません。
子どもとしては、親の将来を考えて少しでもよい方法を提案したいと思うものです。しかし、よかれと思って勧めたことでも、親にとっては、自分のお金の使い方を決められているように感じられることがあります。
まずは、なぜ保険に加入したくないのか、どのようなことにお金を使いたいと思っているのか、親の気持ちを聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。
余裕資金の置き場所は、保険以外にもあります
ご両親に当面使う予定のないお金があるのであれば、保険だけに絞らず、ほかの選択肢も比較してみるとよいでしょう。
例えば、個人向け国債は、国が元本と利子の支払いを行う金融商品です。原則として発行から1年経過すれば中途換金ができるため、一定期間は解約返戻金が払込保険料を下回る可能性のある保険とは、資金の使いやすさが異なります。
ただし、個人向け国債も、購入後1年間は原則として中途換金できず、中途換金時には直前2回分の利子相当額が差し引かれます。また、固定金利型と変動金利型では金利の仕組みも異なります。
そのほか、預貯金をどの程度残すのかも重要です。医療費や介護費用、施設への入居費用など、急に必要になる可能性のあるお金は、すぐに使える形で確保しておきたいところです。
運用することだけを考えるのではなく、使う時期に応じてお金を分けておくことが大切です。
親のお金は、家族全体の問題でもあります
田中さんには、別居しているお兄さんがいます。
ご両親の財産は、現在はご両親自身のものです。ご本人が判断できる状態であれば、どのように使い、どのような金融商品を選ぶかは、ご本人の意思が尊重されるべきです。
一方、将来相続が発生すれば、残された財産は相続の対象となります。保険契約の内容や受取人の指定によっては、相続時の取り扱いも変わってきます。
田中さんがご両親のためを思って保険を勧めたとしても、お兄さんから見ると、妹が親のお金を自分の判断で動かしたように映ってしまう可能性もあります。
もちろん、兄弟にすべての金融商品の選択について同意を得なければならないということではありません。大切なのは、ご両親自身が納得して決めることです。
もし、ご両親が資産運用や保険への加入を検討するのであれば、必要に応じてお兄さんにも情報を共有し、ご両親がどのような考えで判断したのかが分かるようにしておくと、将来の誤解を防ぐことにもつながります。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親のお金について考えるとき、子どもができることは、よいと思う商品を見つけて勧めることだけではありません。親がこれからどのように暮らしていきたいのか、そのためにどのくらいのお金が必要なのかを、一緒に考えることも大切な役割です。
親のためを思うからこそ、急いで結論を出さず、本人の気持ちを尊重しながら、これからの暮らしとお金について話し合ってみてはいかがでしょうか。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 寺田紀代子

