ご相談者様DATA
(年齢)27歳 稲垣 誠さん(仮称)
(職業)ハウスメーカー勤務・営業
(家族構成)配偶者 稲垣 芽衣さん(仮称)26歳
相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)
大学卒業後新卒で入社し2年目です。大学入試や卒業までつまづきまくりましたが、地元ではまあまあ知名度のあるハウスメーカーに入社できました。お給料は手取りで18万位で、介護の仕事をしている妻と共働きです。後3ヵ月でパパになります。子供は早く欲しかったのですが、現実になってくると、責任の重さを感じてしまいます。貯金はほとんどないし、子供が生まれてから自分にもしものことがあったらと考えると、経済的なことが心配になってきました。自動車保険でお世話になっている保険代理店で、定期的にマネーセミナーやライフプランの相談会をやっている担当の寺田さんを思い出し、相談してみようと思いました。
ご相談内容
結婚はしたものの、お財布は別々で、今まで将来のことなどは話し合わず、楽しく暮らしてきたというお二人です。家族が一人ふえるという、うれしいライフイベントですが、これからのことを考えるといろいろな不安がよぎってきます。今回は誠さんの「ねんきん定期便」をご持参いただき、誠さんにもしものことが起こったら、残されたご家族はどのような支援が受けられるのかお話ししました。
ご相談でお話しした内容
まず始めに、誠さんと芽衣さんが加入している年金は何かを伺いました。お二人とも就職する際の最優先の選択条件は、「賃金」と並んで「各種社会保険完備」だったそうです。ですので、声をそろえて「厚生年金です」と答えてくれました。
ちなみに「各種社会保険完備」というのは厚生年金保険、健康保険、雇用保険、労災保険の4つが完備されていることを言います。万一の時にご家族が受取れる支援はこの中の厚生年金保険から支給されます。
厚生年金で支払われる年金は?
年金というとどうしても、老後に受け取れる老齢年金が浮かんでしまいますが、老齢厚生年金の他に遺族厚生年金、障害厚生年金という力強い年金があります。メディアなどの影響もあり、特に若い世代の方たちには、あてにならないと思われがちな年金制度ですが、誠さん達のような若いご家庭のもしもを支えてくれる強力な助っ人です。
老齢厚生年金
老齢基礎年金の受給資格(10年以上)があり、そのうえで厚生年金の加入期間が1ヶ月以上あると、老齢基礎年金(国民年金部分)に加えて老齢厚生年金を受け取ることができます。(受給資格期間の10年には、国民年金のみに加入していた期間や、学生納付特例の納付猶予を受けた期間なども含まれます)
遺族厚生年金
会社員・公務員など厚生年金に加入中または被保険者だった人に生計を維持されていた遺族(年収850万円未満の方)が受取ることができます。
ここでいう生計を維持されていた遺族とは?
- 妻
- 子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障がい等級1・2級の者)
- 55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。但し、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる)
障害厚生年金
障害基礎年金(障害等級1級2級となった被保険者が受取れます)に加え、障害厚生年金では、障害等級3級の年金や、3級より軽い場合の手当金(一時金)も受取れます。
障害年金を受け取るためには、次の要件を満たすことが必要です。
①障害の原因となった病気やけがの初診日から1年半を経過した日、またはそれ以前に症状が固定した日に一定の障害になっていること。
②初診日の前日の時点で、初診日のある月の前々月までに、被保険者期間の1/3を超える保険料の未納がないこと。但し、平成38年3月までの特例があって、1/3を超える未納があっても、初診日に65歳未満で初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ要件を満たすことになっています。
③障害手当金の場合は、初診日から5年経過した日、または5年位以内で症状が固定した日に3級より軽い一定の障害の状態になっていること。
ご相談の誠さんの一番の心配は、病気や事故で自分が死亡してしまったらどうなるのかということでした。年金には上記のような支援がありますが、今回は遺族厚生年金に絞ってお話ししました。
遺族年金を計算してみましょう!
遺族年金を計算するには毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」があれば簡単に試算できます。小さなハガキですが、年金に関する今までの情報が簡潔に表示されています。35歳、45歳、59歳の年にはハガキではなく、封書で送られてきます。更にいままでの履歴が詳しく表示されてきますので、納付漏れがないかなど確認しておきましょう。
必要なのはこの欄
(日本年金機構のデータをもとに筆者が作成)
まず、基本になるのは遺族厚生年金
遺族厚生年金は、老齢厚生年金の3/4相当額です。計算式は
D(加入実績に応じた年金額)×3/4
になるのですが、誠さんのように厚生年金に加入されて間もない方を計算してみると
20,553円×3/4=15,414円
になってしまいます。この金額は月額ではなく年金額です。これでは、残された芽衣さんやお子さんの支援にはならないですね。
そこで、Bの厚生年金加入期間が300ヶ月に満たない場合300ヵ月とみなしてあげる仕組みがあります。 300ヶ月の最低保証というわけです。
以下が公式です。
D(加入実績に応じた年金額)÷B(これまでの厚生年金加入期間)×300ヶ月×3/4
誠さんに当てはめると
D 20,553円÷B 18か月×300ヶ月×3/4=256,912円
これが、誠さんに今万一のことが起こり死亡してしまった場合、芽衣さんが一生涯受け取れる年金です。
次に加算されるのが遺族基礎年金
これから生まれるお子さんの数により違いますが、おひとりと仮定して考えます。このお子さんが18歳の誕生日を迎えた後の3月まで定額で年額1,003,600円を受け取れます。遺族基礎年金は定額なので、誠さんのお給料が今後昇給していっても、18歳になるまでの間金額は変わらず、遺族厚生年金に上乗せされ受け取れます。
意外に知られていない中高齢寡婦加算
更にお子さんが18歳を迎えた後、芽衣さんが65歳になるまで、中高齢寡婦加算 年額584,500円を受け取ることができます。お子さんが18歳になって遺族基礎年金を受け取れなくなった時に40歳以上65歳未満であることが条件です。
ご自身の老齢基礎年金
そして、芽衣さんが65歳になると、ご自身の老齢基礎年金を生涯受取ります。芽衣さんの「ねんきん定期便」拝見したところ、いままで未納や免除がありませんでしたので、これからも、納付し続けたとして、満額だと年額779,300円受取れます。
芽衣さんも厚生年金加入者ですので、ご自身の老齢厚生年金も受給できます。この場合
①今まで受け取っていた遺族厚生年金
②芽衣さんの老齢厚生年金の1/2 + 遺族厚生年金の2/3を計算
①と②のいずれか金額の多い方を受取ることになります。
誠さんに今万一のことがあったら芽衣さんが受取れる年金は?
お子さんが18歳になるまで遺族基礎年金と遺族厚生年金を合わせて年額1,260,512円(月額約105,000円)
お子さんが18歳になった後の4月から芽衣さんが65歳になるまでは、
遺族厚生年金と中高齢寡婦加算を合わせて年額841,412円(月額約70,000円)
芽衣さんが65歳になって老齢基礎年金を受け取るようになると、
遺族厚生年金と老齢基礎年金を合わせて 年額1,036,212円(月額約86,000円)
あくまで、今現在の資料にもとづいた試算ですし、国の経済状況によって金額は変動しますが具体的に数字を出すことで、課題がみえてきたようです。
まとめ
誠さんは思いのほか国の保障があるということに驚かれました。今回試算した結果、子どもが大きくなるまでの間は年金が100万円以上出ると知って、芽衣さんが働いて得る収入があれば、暮らしていくことはできそうだと感じられたようです。ただ課題は残りました。子供が小さいうちに自分がいなくなり、芽衣さんが一人で子育てしていく場合、芽衣さんが今とまったく同じように働いて収入を得られるとは考えにくいからです。後いくらあれば、今と同じ生活が保てるのか、保険のような民間の保障で備えるのか、貯蓄で賄っていくのかなど、家計全般の見直しを含めもう一度ご相談をお受けすることになりました。
お帰りの際に、「生命保険の加入を勧められるのではないかと、実は少し思っていたのですが、国の保険のお話だけだったのでちょっとびっくりしました」と笑っていらっしゃいました。はい、私は保険を売らない保険営業マンとして有名なんです(笑)。次回じっくりと、家族を守る手段はどんな方法が適切か、一緒に考えていきましょうね。