こんにちは、FP相談ねっと認定FPの向藤原です。
皆さんは、「運用のプロ」と聞くとどんな人を想像しますか?まず、わかりやすいところで言えば投資信託のファンドマネージャーでしょうか。
ヘッジファンドの運用担当、国の年金資金の運用担当者、銀行や証券会社で、自社の資金の運用に携わる人もそうでしょう。でも、少なくとも銀行マンや、証券マンなど営業の人は運用のプロではないですよね。
運用のプロのシナリオ
運用のプロは今回の大きな値下がりの中で、どんなシナリオを描いているのでしょうか。株式投資信託の多くは、ある程度下げが予想できても、あらかじめキャッシュポジションを作るなど、事前の対策をとるファンドマネージャーは、少数派だと思います。
マーケットに負けることが、ファンドマネージャーとして一番避けたいことと考えてください。例えば平均株価が20%上昇している期間に、その人の運用している投資信託が、15%しか上昇していなかったら、かなり苦しい立場になると考えられます。
仮に、下がると思っていたのに、下がらず上昇してしまったら、事前に下がると考えてキャッシュポジションを高めていると、市場の上昇についていけません。サラリーマンとして運用に従事している人が、思い切った運用戦略を立てられないのは、容易に想像できますね。
一方、自身でヘッジファンドを立ち上げ、自身への信用を元に資金を集められるような人は、かなり積極的にリスクをとれるのではないでしょうか。今回の様に、アメリカの株式市場にある程度の割高感があるところから下げる局面など、絶好のターゲットではなかったかと考えます。
個人投資家の大部分、ましてや最近、積立投資を始めたばかりの人などには、考えもつかないような資金力を持って、株式の先物市場や、オプション取引なども駆使し、ヘッジファンドの保有する資金の何倍もの金額に相当する取引を手掛けることが出来るのです。2019年10月10日付の日本経済新聞社の報道、「ヘッジファンド 解約急増」によると、「ヘッジファンド全体の運用資産残高は6月末で3.2兆ドルと過去最高水準にある。」としていますので、300兆円以上の資産をヘッジファンドは保有していると考えられます。
2020年3月13日時点の東証1部の時価総額が、483兆円弱ですので、ヘッジファンドの保有している資産に少しレバレッジをかければ、簡単に価格支配できることになります。今回の下げの局面では、下がったら儲かるポジションを持った、大きな資金が動いていると考えておく必要があると考えます。
ヘッジファンドがすべてうまくいっているわけではありません。2020年2月の段階ですでに大きく損失を出しているヘッジファンドもあり、運用のプロといえども今回のショックにうまく対応できていない人も多い様です。
リーマンショックほどのことはないと言い切れない
今回の株価の値下がりについて、私自身はアメリカのS&P500の下げ率で20%以内に収まることを前提に考えていました。実際には、3月12日の終値で、2月19日に付けた高値から、26.7%も値下がりしてしまいました。
アメリカの消費は、株高に支えられてきた面は否定できず、株価がシュリンクしてしまうと、将来的に消費が落ち込むリスクが高まります。そして何よりも、感染拡大を食い止めるために、人の移動の制限が始まり、小規模な店舗から、大規模のビジネスまで、影響が大きくならざるを得ないことが現実味を帯び、不安心理は増幅しやすい状況になってしまいました。
下のグラフは、リ-マンショック時の2018年末までの3か月間のS&P500の推移と、VIX指数を並べたグラフです。VIX指数は、先物が上場されており、「恐怖指数」ともいわれるように、S&P500の値動きの日々の変動率の予測に基づいて取引され、株価が大きく下がるときには、指数が高くなる傾向があります。
リーマンショック VIX対S&P500
VIX指数が2回目の80越えを付けた段階で、S&P500は2007年10月8日の高値に対し、48.8%安の水準まで下げています。現段階で大手証券会社が破綻するような信用不安が増幅する局面ではありませんので、このようになると考えているわけではありません。
考えておくべきことは、ウイルス感染がさらに大きく広がった場合に、どのような対応ができるのか。そして、この状況が長引いた場合に、信用不安が防げるのかという点になると考えます。
この3か月のS&P500とVIX指数の動きはどうなっているでしょうか。直近で初めてVIX指数が70を超えた3月12日にS&P500が2,478.86の安値を付けています。
コロナショック VIX対S&P500
アメリカのトランプ大統領は3月13日、最大500億ドル(約5兆円)の財政出動を可能にする国家非常事態を宣言しました。米連邦準備制度理事会(FRB)は15日、政策金利をゼロ近辺に引き下げるとともに、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を7000億ドル(約70兆円)買い入れる方針を明らかにしました。
世界の主要6中央銀行は16日(日本時間)、国際金融市場の安定に向け、ドル建ての資金を市場に供給する枠組みを拡充することで合意したと発表しました。日銀は16日、現在、年6兆円としている上場投資信託(ETF)の購入目標額を12兆円に倍増し、コマーシャルペーパー・社債の購入や中小企業の資金繰り支援のための金融機関向けの資金供給の拡充も発表しました。
各国が打てる対策を総動員して、とるべき対策を発表しました。ですが、この記事を書いている、3月16日の21時時点で、私はかなり心配しています。
本来の株式の価値からすれば、考えられないようなバーゲンセール状態になっていると感じています。たとえ、一時的に赤字が膨らむとしても、ある程度売り上げが回復すれば利益水準はかなり戻ると考えています。
問題は、そんな将来の価値など関係なく、目先の利益を狙う、一部の運用のプロの中には、先物やオプションなども駆使し、下がったら儲かる取引を繰り返す人もいるであろうことです。今回の一連の発表を見て、とりあえず出せる好材料が出尽くし、ここから下がっても打つ手はないだろうと考え、積極的に仕掛けてくることも考えられます。
リーマンショック VIX対S&P500・3年
実は、リーマンショックの際は、3か月の下げで終わらず、2009年、翌年の3月6日に、2007年の高値から、57.4%下げた水準まで下がって底を付けました。VIX指数は80台まで上げることなく、安値を更新しました。
実体経済がしっかり回復しないことには、本格的な株価の回復には時間がかかることは、念頭に入れておく必要があります。マーケットの状況を見ながら、時間軸をもって対応を考える必要があると考えます。
ここからどう対応すればよいのか
資金力のある「運用のプロ」に対抗して、個人投資家が勝とうとすることには無理はあります。ただ、運用のプロと違い、皆さんには時間があるという強みがあるのではないでしょうか。
運用のプロは、短期間で運用成果を上げる必要があります。また、世の中を煽って、マーケットを崩して大きく儲けようという資金力のある輩もいるでしょう。
投資信託の積立投資を前提にしている方は、長期に考えて投資を続けることで、ここから仮に下がることがあれば、今まで以上に安く、たくさんの口数の投資信託を買い付けることが出来ます。今、手元に大きな資金がなくとも、時間の経過とともに生み出せる資金で追加投資ができることは、最大の強みではないでしょうか。
私がお客様とポートフォリオについてご相談する際、円と外貨で半分、株と債券で半分と、基本4資産を等分で分散投資いただくことを前提にしています。あとは投資のタイミングと、お客様のリスク許容度と状況により、一時的にポートフォリオを崩し現金を持つことも前提にしています。
最初にお話しすることは、ポートフォリオ全体で考えても3~4割下がることがあることを前提とお話ししています。今回の下げでは、一番マイナスの出ている方で現時点で15%程度と思われます。
今回の下げについては、当初20%程度の株価調整と考え、必要と考えるお客様とは、初めてポートフォリオを現金化してキャッシュポジションを持つ対応を2月半ばまでご相談しました。短期で終息する予想が外れ、マーケット状況の変化から、まだあまり買い戻していただいておらず、時間をかけて少しずつ買うスタンスでご相談を継続しています。
マーケットは実体価値を超えて、大きく変動してしまうことはやはり避けられません。ただ、時間がたてばいつの間にか実体価値に従い、株価は修正されていきます。
また、売りを仕掛けてマーケットに対応している人たちは、ひとたび上がり始めると、慌てて買い戻す行動に出ざるを得なくことが多いです。これは、上がりだしたら買えないまま株価が上がり、「締め上げる」と厳しい表現ですが、売り方が大損する局面が多くの場合、出現します。
冒頭に書いたように、銀行マンや、証券マンの大半は運用のプロではありません。我が国にも、金融商品仲介業者(IFA)や、投資助言業者など期待される立場の人もいますが、玉石混交で本当に頼れる存在かの見極めは非常に難しいです。
今回のような局面では、まずは、当初、ご自身がどういう目的で投資に取り組み始めたのか思いだしていただきたいと思います。たとえ、この調整局面が3年続くようなことになってもしっかり持ちこたえられるよう、強い信念と計画性をもって対応していただきたいと思います。
すべての資産を一番の安値で投入することはまずできません。少しずつ分散しながら買い、少し買いそびれたまま上がっていってしまうくらいがちょど良いと思います。
皆さんが健康で、健全な投資を続けられることを祈念致します。
2020年3月16日記