向藤原 寛

金融機関が変身するラストチャンスか?

こんにちは、確定拠出年金相談ねっと認定FPの向藤原です。

 

23日、日本FP協会創立30周年記念講演として、金融庁総務企画審議官、中島淳一氏の「顧客本位の業務運営とFP」というテーマの講演を聞きました。

 

この20年間の家計金融資産は、運用リターンによる残高増加率は日本が1,2倍になったがアメリカは2,45倍になっていて日本は非常に見劣りしている。我が国においても家計の安定的な資産形成に向け、長期・積立・分散投資の普及・定着を促していく必要があり、それに向け取り組んでいるというお話でした。

 

 

顧客の最善の利益の追求

 

この講演の中で金融機関に対し、「顧客の最善の利益の追求」を求め、「顧客の最善の利益を図ることにより、自らの安定した顧客基盤と収益の確保につなげていくことを目指すべき」

と指導をしているとのお話がありました。

 

私が1986年に証券会社に入り、以来ずっと会社に対して訴え続けてきたこと、まさにこれが「顧客の最善の利益を図ることにより、自らの安定した顧客基盤と収益の確保につなげていくことを目指すべき」という考えでした。

 

残念ながらすでに30年以上経過してもあまり変わらない状態で金融機関は存在している様に思います。指導の結果として、手数料が高く、子会社の運用会社を使い、運用パフォーマンスの芳しくないラップ口座推進になっている傾向があり、絶好の機会を逃している感もあります。

 

金融機関も利益追求する必要があり、どうしても稼ぐ為に安易な方向に流れていきます。その流れを、意志を持ってしっかり食い止め、お客様のために最善は何かを考えて行動すれば、おのずとお客様は潤い、顧客基盤、収益はついてくるはずです。私の経験からしてもそれが一番成功できる唯一の方法だと思うのですが。

 

 

投資は、長期・積立・分散投資だけ?

 

長期・積立・分散投資のほかにもしっかり資産形成を成し遂げる方法はあります。それは常に割安なものに投資し続け、投資対象がなければ投資を休む方法です。金利の高かった1990年前後は価格の安くなった国債がバーゲン状態でした。当時、販売目標のあった、長期国債ファンドを、目標額をかなり上回って販売し続けました。担当する課の達成率は常に全国トップクラスだったと記憶しています。お客様には年率1割程度の運用利回りをしっかり享受していただくことが出来ました。

 

198912月末に38,915円と日経平均がピークを打ち、その後株価は暴落するのですが、その過程で力を入れたのは既発行の転換社債でした。会社からは何の目標も科されていませんでしたが、毎週末スクリーニングを繰り返し、株価が暴落したことによりつられて価格が下がり、満期まで持てば高い利回りになるためこれ以上値下がりはないと思われる銘柄をピックアップ。リストを元にお客様にお勧めしました。長期金利が1990年に8%台で取引されていた状況から92年ごろには5%台で取引されるようになり、国債価格は大きく上昇しましたが、日経平均が14,000円台まで下がるのにつれ、転換社債には8%以上の利回りで買える銘柄がかなり多く存在していました。その後1996年に向け、株価は22,000円台、国債利回りは3%程度に向かったことにより、転換社債も大きく値上がりしました。

 

1995年には、ドル/円レートが79.75円という高値をつけたのですが、その年のはじめごろ本部から、ドル建ての債券を推進するよう指示がありました。ドル/円レートが100円水準で私は全く無視し、85円水準まで円高が進んだ4月ごろから、商品部にお願いして10年満期のオーストラリア国債を仕入れていただき、60円近辺の豪ドル/円レートの水準でお客様に買っていただきました。利回りは10%に近かったでしょうか、もうあまり記憶にありませんが。1997年には豪ドル/円レートは99円、金利もかなり下がり債券価格の上昇と為替差益で大きな利益になりました。

 

一つの支店で課の運営を任されていた1989年から1996年の7年間でフローも合わせてではありますがお客様からお預かりする資産は、課全体でも自分自身の担当分も3倍増していました。優秀な課員に恵まれたこともあり、株がらみの資産が多い中、大幅に値下がりする資産がありながらもお客様からは信頼をいただくことができました。

 

1998年ごろは、日本の中小型で運用するファンドを集中的におすすめしていました。現在存在する投資信託で言えば「SBI中小型割安成長株ファンド ジェイリバイブ」、実質的にエンジェルアセットの宇佐美氏が運用するファンドでした。もう償還されているようで確認できませんが、当時の店頭株(日経JASDAQ)平均が700円台、その後2000年には2,700円台まで上がっていますので、しっかりお持ちいただいた方はかなりの利益が得られたのではないでしょうか。

 

「長期・積立・分散」投資と並行し、マーケットを見る目を養っていただき、しっかりとした資産形成、管理を実行していただける方が一人でも増えることがこの国の健全な成長に寄与できる一つの方法と考えています。

 

 

金融機関の姿勢でお客様の利益は大きく変わる

 

すべてのお客様にこのような提案に乗っていただけたわけではなく、結果的に間違った提案もありました。ただ、日経平均が5分の1に値下がる中でも、しっかり利益を出していくことも出来たのです。お客様が潤うことにより結果として預けていただける資産が増え、その結果金融機関の収益も上がる。どうしてそういう思考が出来ないのか、ある意味会社に対する怒りに近い感情を持ちながら仕事を続けました。会社や上司に提案もしましたし、喧嘩もしました。実績は評価され若い段階から管理職になり、会社からの指示と課員の皆への指示との不整合を続けることがとても苦しく、社内公募でプライベートバンキング部門に移動するなど模索しましたが、経営の考え方が変らない限り無理だと考えました。

 

FA制度、転勤がなく会社の意向ではなく営業マン自身が最適と考える投資方針をお客様と相談し続ける職種。そんな制度があることを知り転職しました。数年間は良かったのですが、会社の株主が変り結局最初の約束は守られず。怒りは体に良くありませんでした。体中に毒が回ったかのように不具合が生じ、体調管理が出来なくなり仕事を続けられなくなりました。大切にお付き合いさせていただいていたお客様との関係も失いすべてが終わりました。当時、証券業務は装置産業と考えていて大きな組織があって初めてお客様を守っていくことができる。そう考えていたので独立することは考えられませんでした。ただ、会社への怒りはあっても人には感謝しています。私が曲りなりにも証券会社で25年もの間仕事が出来たことは、先輩方や同僚たちがいてくれたお陰です。もちろん私を育ててくれた厳しいマーケットに対しても。

 

 

新しい金融の担い手

 

時間が経過し体調が少し回復し始めたので少しずつ仕事を再開しました。マーケットに向き合う気力はなく、証券会社時代に販売してお客様に喜んでいただいた保険の仕事です。しかも特定の保険会社ではなく何十社もの会社の保険を取扱うことの出来る乗合代理店です。ただ、どうしても受け入れられないことがありました。ファイナンシャルプランニングの相談を、保険商品を売るために行うこと。1986年に証券会社に入る動機となったこと、それがファイナンシャルプランニングでした。運よく?金融庁の乗合保険代理店への規制強化がありその仕事も辞めました。

 

社会人になったときの原点に立ち返り、ファイナンシャルプランナーとして相談をメインに、必要があれば金融商品も販売できる立ち位置で取り組み始めて2年が経過しました。特定の金融機関に所属せず、必要のない金融商品を売ることもなく、お客様の立場で継続して相談ができる立場です。今、金融庁の中で私のような立場の人たちの環境整備に取り組んでいるという話を金融庁の方から聞くことができました。

 

金融商品仲介業者(IFA)としても仕事をしていますが、投資信託の買付手数料をネット証券と同じ手数料にしている業者に所属しているのであまり多くの収益は望めません。相談の対価としていただく金額は販売金融機関が受取る信託報酬の何割かという金額だけの場合もあります。運用相談を具体的なところまでお受けする業態として投資顧問業があります。具体的な商品をおすすめし、その結果ともしっかり向き合っていくために、投資顧問業ではなくIFAという立場を選択していますが中立ではないとの考え方もあります。投資顧問業であれば実績報酬も可能かもしれませんが、注文執行までは出来ません。まだまだ注文執行までお手伝いする必要のあるお客様も多く、今後もIFAとしても仕事をしていきたいと考えています。

 

フィンテックの進化により、既存金融機関の状況は大きく変わるでしょうし私のような立場の人間の働き方も大きく変化すると考えています。きっと金融機関の中にいるお客様の利益を第一に考えている方も仕事のあり方を考えていかれるでしょう。優秀な人材をつなぎとめていくためにも金融機関も変らざるを得なくなって来ていると感じています。

 

iDeCoを取扱う金融機関では相変わらずほとんど子会社の運用商品ばかりを扱う大手金融機関が目につきます。管轄が厚生労働省なので安心しているのでしょうか。私はiDeCoをどこで申し込むか相談されるとどうしてもネット証券優先になります。証券口座での取扱商品についても特に投資信託についての選択肢はネット証券には豊富にあり、ベストに近い商品選択が可能になっています。今、金融庁が検討している仕組みが新たな金融の担い手を一気に増やし、金融機関の在り方そのものを大きく変革し、お客様の立場で資産形成、資産管理をサポートできる人材が育つことを祈念してやみません。

 

 

 

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