あわや、リーマンショック級の金融危機の再来か!?と、一部では警戒された「シリコンバレー銀行破たん」による、いまのところ一過性の金融危機ですみそうな雰囲気となっています。
過去を振り返ったり、歴史を学ぶことで、実際はなにが起こったのか、どのような影響を与えたのか、そしてそれが未来にどのような意味をもつのか、ということを学ぶことができ、我々に大きな教訓を与えてくれます。
今回のテーマは、3月のclubhouseにも関連しますので、ご興味あるかたはリプレイを視聴いただけたら幸いです。
そしてここでは、つたない意見ですが、現時点の野原流の答えを残しておこうと思います。
歴史は繰り返さないが韻を踏む
この一連の出来事は、我々金融業界の人間だけでなく、読者の皆さまにもとても興味深い答えを示してくれました。
積立投資家であっても、機関投資家などのプロ投資家であっても、東京証券取引所やNY取引所などのマーケットを通じて、常に大衆心理と関わっています。
この大衆心理は、うまく活用すれば大きな収益機会となりますし、流され巻き込まれてしまうと大きな損失にもつながりかねない、重要なポイントとなっています。
今回、大衆心理について感じたのは、「またか(汗)」という思いです。
あえてその特徴をあげるとすれば、合成の誤謬・マッチポンプというキーワードです。
米シリコンバレーバンク(SVB)は増資発表からわずか2日後の10日に経営破綻し、その2日後に米政府による預金全額保護が決まった。異例のスピードで事態が動いた背景には1日で5兆円超の預金が流出し、他行にも波及したSNS(交流サイト)時代ならではの「取り付け騒ぎ」があった。(中略)「SVBが危ないんじゃないか」。大口預金者が引き出したとの情報が伝わり、ツイッターなどSNSではSVBのオンラインバンキングの不具合を示す画面が拡散した。9日には預金全体の24%に相当する420億ドル(約5兆6000億円)が一気に引き出された。
日経新聞:シリコンバレー銀行、SNS時代の超速破綻 異例ずくめ
合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)
ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、必ずしも意図しない結果が生じることを指す。
ウィキペディアより
アメリカのFDIC(連邦預金保険公社)によるペイオフ(1金融機関ごとに合算される保護対象分で、元本と利息を含む)は10万ドル(2023年3月末で約1,300万円)です。
シリコンバレー銀行の預金者は、ベンチャー企業やその経営者などの大口顧客が多くを占めていたとされ、SNSに投稿された預金引き出しの希望者の行列や、システムの不具合のシーンをみて、さらに長い行列へとつながり、銀行側の紙幣準備が追いつかなかったという経緯です。
アメリカの詳細なデータは不明ですが、例えば日本においては、1万円札などの通貨(流通する貨幣)の7倍くらいが、現物の紙幣ではなくデジタルデータとして流通しているため、預金者が一斉に引出しにくると、紙幣の準備が追いつかないという事情があります。
リスク分散せずにひとつの銀行に預金を集中させるとは、リスクとりすぎですが、まさにSNSが果たした負の役割が大きかったようです。
このように、個人の利益を考えれば正当化されうることでも、多数の利益を考えると全体の不利益となることを合成の誤謬といい、まわりまわって結局は自分の不利益となって返ってきてしまうことにもなります。
ミクロな利益とマクロな利益が異なる場合もあるということですね。
マッチポンプ
自らマッチで火をつけておいて、それを自らポンプで水を掛けて消すと言う意味で、偽善的な自作自演の手法・行為を意味する。
ウィキペディアより
結局、今回結果的に株式市場などにおいて評価をあげたのは、政府やFRB側ではありますが、元々いつおきてもおかしくない火種を放置しておいたのは、まさに政府やFRB側です。
ある意味、自分たちで火をつけて、自分たちで火を消すという結果となったことは、誰も否定できないでしょう。
何より、アメリカ民主党政権は、コストプッシュ・インフレ加速と金利急上昇という、ダブルパンチを引き起こした張本人ですから、釈然としない部分も多々あります。
また、預金の流出に見舞われた地方銀行を、大手や地方銀行が預金を預け入れることで救出するというのも、考えさせられる展開だったかと思います。
かつて起こったSNSに絡む事例
ここまでご紹介したところで、読者の皆さまもなにか思い出したのではないでしょうか。
例えば、コロナショック時におけるトイレットペーパーを求める人たちの行列や、高騰したマスクをまとめ買いする人たちです。
「またか!」という感じですよね。
自分や家族の命を守るためには仕方なかっともいえるかもしれませんが、冷静な目でみると、まんまと大衆心理にやられてしまったということでもあります。
ほかにも類似の要素をもった出来事を2点ご紹介しましょう。
アメリカでトランプ大統領が煽ったとされる、2021年1月6日の「国会議事堂襲撃事件」では、民主党側の自作自演を証明する証拠が続々とでてきていることで、アメリカでは大きな騒ぎとなっているようです。
マッチポンプや(社会的)同調圧力の典型的な事例です。
また、医学的リスクをまったくスルーして、ワ○チ○接種をススメたり、接種したことをわざわざSNSでアップする人たちが多かったですが、それらもひとつの要因でしょうが、経済活動は停滞し、接種しないことによる死亡者よりも、経済的理由や接種したことによると思われる死亡者のほうが、多くなってしまいました。
幸い、これに関連して亡くなってしまったかたは、僕の友人にはおりませんでしたが、親の友人の子どもたち、つまり僕と年齢が近めの40代前後の男女が数名、突然死で帰らぬ人となってしまいました。
ご冥福を祈ることしかできず、なんとも言えない、無力感を突きつけられる思いです。
悲しいことですが、これも合成の誤謬や同調圧力の良いお手本です。
SNSの影響力
もうほとんど忘れているかと思いますが、2010年くらいから起こった「アラブの春」は、SNSによって拡大した一連の、初の革命運動とも言われ、事後検証でも様々な思惑が取りざたされました。
SNSは我々に便利な生活を提供してくれますが、同時に大衆心理に歯止めが効かなくなったり、事実確認できる前に、憶測どころか思惑や思い込みで動かされてしまうという、危険性をはらんでいます。
それが結果的に、総合的に、良いか悪いかということではなく、良くも悪くも様々な出来事につながるリスクを常に内包しているということだけは、心に留めておくべきでしょう。
僕がいつも考えることは、より「視野を広げる」「視座を高める」ということです。
迷った時には、1ステージ・1ステップ、上の階層に上がってから物事を考えてみるクセをつけておくのも良いでしょう。
金融教育の有効性
野原流の金融教育では、FPとして金融に関わりつつも、筆者自身が個人の積立投資家としてだけではなく、中小企業のマクロ経済や資金運用アドバイザーとして常にマーケットに関わっているため、大衆心理とうまく関わっていくことが欠かせませんが、いままでのことは全ての投資家に共通する重要な視点です。
大衆心理は、我々に収益機会を提供してくれると同時に、大衆心理をどう位置づけるか、どう解釈するか、それによって我々はどのように行動したら良いかなど、自分の頭で考えることが求められます。
自分で考えて、自分で行動できなければ、収益機会を逃すくだけでなく、致命的なミスにまで発展するリスク、ミスを多発するリスクがあります。
金融教育ではミクロな金融を学ぶだけでなく、我々の生活に密着した経済活動そのものや、大衆心理、人間について学べる場でもあります。
だからこそ、金融教育が我々の生活を安定・向上させるために欠かせない教育のひとつでもあるわけです。
読者の皆さまも、本物の金融教育に出会えるチャンスを、ぜひつかみとっていただけたら幸いです。
そして最後に、僕が証券業界にいた時に教わり、いまでも記憶に残っているものの中から、ひとつをご紹介しましょう。
まずは疑え!
これは、疑心暗鬼になれとか、ひねくれ者になれという意味ではなく、まず最初は疑ってみることで、自分の頭で考えるクセがつくようになる、という意味だと解釈しています。
インフルエンサーが、良識と見識をインフルーエンスしているとは限らないわけですよ。
流されたり、ダマされたり、過信したり、臆病になったり・・・誰もが弱い人間ですが、少しでも強くなれたとしたなら、それでも良いんじゃないでしょうか。
「またか!」
そんなリアクションをお待ちしております(笑)
人間は、見たいと思う現実しか見ない ー ユリウス・カエサル
経験というのは、莫大なお金に匹敵する価値がある。ただ、ほとんどの人が、その経験を学びに使わない。 ー ベンジャミン・フランクリン
やっかいなのは、何も知らないことではない。実際は知らないのに、知っていると思い込んでいることだ。 ー マーク・トウェイン