ご覧の皆さま、こんにちは。
年金というフィールドで、相談業務、教育研修、制作(執筆・編集等)、調査研究という4領域で活動中、年金のポリバレント・井内(いのうち)です(※ポリバレントとは、サッカーで複数のポジションをこなせる選手として使われている言葉です。)。
会社員の夫が亡くなったあと、一定の要件を満たした妻に遺族厚生年金が支給されることになります。
夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3が遺族厚生年金として計算されます。
長寿国日本ですので、多くの場合は会社を既に退職した高齢期の夫が亡くなり、遺された奥さんも高齢者であることが多いでしょう。
奥さんが専業主婦だった場合はこのまま支給されるでしょうが、共働き夫婦だった場合は、
「ウチは夫婦共働きだったので遺族年金は支給されないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、実際のところはいくらかでも支給されることがあります。
まず、妻・65歳以降の場合の遺族厚生年金については差額支給となります。妻自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金をまず受給し、遺族厚生年金の受給額については、遺族厚生年金(夫の報酬比例部分の3/4)から妻自身の老齢厚生年金を差し引いた額となります。
遺族厚生年金(夫の報酬比例部分の3/4)が100万円、妻の老齢厚生年金が30万円であれば、70万円が差額支給分となります。
夫死亡後、「老齢基礎年金+老齢厚生年金+差額分の遺族厚生年金」の3種類の年金の合計で受給することになります。
専業主婦期間が長く、勤めた期間が短い奥さんであれば、自分の老齢厚生年金が少ないため、差し引かれる老齢厚生年金が少なく、遺族厚生年金が多く支給されることにもなるでしょう。
一方、夫婦共働きで、特に奥さんのほうが勤めた期間が長いと、自分の老齢厚生年金が多くて差額支給の遺族厚生年金が支給されないのではないかと思えてきます。
実際はいくらかでも支給されることが多く、それは3つの理由からとなります。
①経過的寡婦加算があること
1956年4月1日以前生まれの妻には生年月日に応じて経過的寡婦加算があります。
生年月日の早い世代ほど加算額も多くなりますが、遺族厚生年金本体(報酬比例部分の4分の3)の額に寡婦加算の上乗せがされ、その合計額から妻自身の老齢厚生年金を差し引きます。
差し引き前の遺族厚生年金の額が多くなり、結果、実際に遺族厚生年金が差額分として支給されることにもなります。
死亡した夫に厚生年金加入期間が240月以上あれば経過的寡婦加算の対象になり(※在職中死亡等短期要件の場合は240月未満でも加算)、現在70代の奥さんであれば10~30万円程度加算されます。
②男女間の賃金格差の年金額への影響
残念ながら男性と女性では依然、賃金の水準に格差があります。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると平成31年時点で男性の賃金を100とした場合の女性の賃金は74.3となっています。
その格差は年々縮小傾向にありますが、まだ格差は解消されていません。
老齢厚生年金は本人の、遺族厚生年金は亡くなった人の、過去の給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)の額及び加入期間を元に計算されることとなっています。
この男女間格差を、年金という点で見た場合、奥さんのほうが厚生年金に長く加入しても給与が低かったために老齢厚生年金がそこまで高くないということも多くなっています。その結果、遺族厚生年金(+先述の経過的寡婦加算)から差し引く額が多くない場合もあり、差額支給で遺族厚生年金が支給されることもあります。
単純に勤めた期間だけでは遺族厚生年金が支給されないとは言えないということになり、たとえ厚生年金の加入期間が夫20年、妻40年でも支給されることがあります。
③遺族厚生年金×2/3+老齢厚生年金×1/2の計算方法
遺族厚生年金は差額支給であることは既に触れましたが、単純に差額支給で計算するとは限りません。
実際の遺族厚生年金の支給額は、次のAかBいずれか高い額を差し引き前の遺族厚生年金とし、そこから妻の老齢厚生年金を差し引いて差額分を計算します。
A.夫死亡による遺族厚生年金(+経過的寡婦加算)
B.夫死亡による遺族厚生年金(+経過的寡婦加算)×2/3+妻の老齢厚生年金×1/2
Aの場合は単純に遺族厚生年金から老齢厚生年金を差し引く計算方法ですが、Bの場合は例外的な方法で、これは夫死亡の遺族厚生年金と妻の老齢厚生年金の金額が近い場合に用いられる計算方法、つまり、共働きの場合に用いられやすい方法です。
夫死亡による遺族厚生年金が90万円、妻自身の老齢厚生年金が80万円だったとします。Aの場合では実際に支給される遺族厚生年金は単純に10万円(90万円-80万円)ですが、Bの場合は20万円(90万円×2/3+80万円×1/2-80万円)が支給される計算です。
この場合、差し引き前の遺族厚生年金が100万円(90万円×2/3+80万円×1/2)、実際の遺族厚生年金支給額が20万円となって金額の多いBを元に計算されます。単純に差額支給で計算(Aの場合)するより有利となるでしょう。
もっと極端な場合、遺族厚生年金が90万円、妻の年金が110万円と、妻自身の年金のほうが多くても、「90万円×2/3+110万円×1/2」から110万円を差し引いて計算され、5万円は支給されることになります。
共働きの場合の遺族厚生年金については以上となりますが、もしもの時の遺族厚生年金の見込額は年金事務所で算出可能です。その年金額は夫・妻それぞれの年金記録が関係しますので、気になる場合はご夫婦で相談に行かれるのがよろしいかと思います。
【これまでの実績】——————-●年金相談は合計4000件以上経験、●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向けなど。●執筆は通算250本以上!『週刊社会保障』の「スキルアップ年金相談」(法研様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、月刊『企業年金』の「知って得!公的年金&マネープラン」(企業年金連合会様)。●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。●取材協力先として扶桑社様、日本経済新聞社様。●その他、動画「人生とお金の悩みを解決!たった5分のお金の学校」に出演。
執筆・取材のご依頼は下記まで↓↓↓