ご欄の皆様、こんにちは。
特定社会保険労務士、CFP®認定者の五十嵐です。
現行の年金制度上、障害基礎年金、遺族基礎年金、老齢厚生年金を受給していて、18歳年度末までの子あるいは障害等級1級・2級の20未満の子(いずれも婚姻していない子)がいれば、加算がされることになっています。
2028年4月の年金制度改正により、老齢基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金について子の加算制度が新設されることになり、現行の障害基礎年金、遺族基礎年金、老齢厚生年金も含めた6つの年金について子の加算制度ありとなります。
基礎年金は「子の加算額」、厚生年金は「子の加給年金」として加算されることになります。
また、改正により、子の人数にかかわらず、1人あたりの加算額も現行の子1人目・2人目の額の1.2倍になり、1人あたり「269,600円×改定率」(2025年度で計算すると287,100円)で計算されることになります。
改正が施行されるまではまだ2年以上あります。
改正前(2028年3月以前)の子の加算制度の適用を受けている方は、改正施行(2028年4月)後に改正後の制度の適用を受けられるかどうか、改正によって影響を受けることになるのか気になるところでしょう。
また、社労士やFPの方におかれましては、その点についてのご相談を受けることもあることでしょう。
ここで今回、子の加算制度の改正における経過措置について纏めました。
老齢年金についての子の加算制度
①改正前の老齢基礎年金受給権者への子の加算
改正で新設される老齢基礎年金の子の加算額について、改正日(2028年4月1日)前の老齢基礎年金の受給権者には適用さません。
つまり、この場合は改正日を迎えても加算されません。
②老齢厚生年金の子の加給年金の要件
改正後の老齢厚生年金の子の加給年金の加算要件については、厚生年金被保険者期間120月以上で老齢厚生年金の受給権取得当時(65歳)、あるいは受給権取得後の年金の改定時(退職時改定・在職定時改定)に初めて厚生年金被保険者期間120月以上となった当時、生計を維持する子がいることとなります。
現行制度上は厚生年金被保険者期間240月以上となっていますので、これが120月以上に変わります。
この新しい老齢厚生年金の子の加給年金の加算要件は、改正日以後に老齢厚生年金の受給権者となる人に適用されますので、改正前から受給権のある人は従前の240月以上という要件となります。
主として生計を維持する配偶者等がいる場合の支給停止
改正後は、子の加算額は配偶者等に主として生計を維持され、その配偶者等に子の加算がつくような場合は、本人の加算は支給停止になることとされています。
つまり、夫婦ともに年金を受給していて、子どもがいる場合、子の加算部分は夫婦のうち主として生計を維持されている側に加算されることになり、そうでない側の加算はつかないことになります。
子が夫に主として生計を維持されていれば夫に加算され、妻には加算されません。
しかし、改正施行の際に現に子の加算のある年金を受給できる人には適用せず、経過措置で夫婦いずれにも加算がされます。
改正前からの加算制度で、夫婦が年金を受給するケースですので、老齢厚生年金の子の加給年金と障害基礎年金の子の加算がその対象となります。
子の加給年金・加算額の増額
障害基礎年金の子の加算、遺族基礎年金の子の加算、老齢厚生年金の子の加給年金は改正前からある加算制度ですが、その加算額は改正以降は現行制度より多くなります。
2028年4月分から改正後の額が適用され、2028年3月以前の月分については改正前の額となります。
つまり2028年3月分までは現行の加算額で、2028年4月分から加算額が増えることになります。
厚生年金と基礎年金両方に子の加算がある場合の厚生年金が優先する規定
2028年4月改正により、厚生年金の子の加給年金と基礎年金の子の加算両方の対象となる場合は厚生年金の子の加給年金を優先するルールが設定されます。その場合、基礎年金の子の加算は支給停止になります。
つまり、基礎年金と厚生年金の両方の加算は受け取れません。
①遺族基礎・厚生年金の受給権者で遺族基礎年金の子の加算がされている場合
現行制度で遺族基礎年金と遺族厚生年金両方を受給していて遺族基礎年金の子の加算がされている場合、2028年4月分から遺族厚生年金は子の加給年金を加算した額に変わります。
その代わり遺族厚生年金の子の加給年金が優先するため遺族基礎年金の子の加算は支給停止となります。
また、2028年3月分までは現行の加算額で加算され、2028年4月分から1.2倍の加算額へ増えることになります。
②「老齢厚生年金+障害基礎年金」で受給する老齢厚生年金の子の加給年金優先規定
現行制度上、65歳以降で併給可能な老齢厚生年金と障害基礎年金の組み合わせで受給する場合、子どもがいると、障害基礎年金の子の加算が優先され、老齢厚生年金の子の加給年金は支給停止になります。
しかし、2028年4月分以降は老齢厚生年金の子の加給年金は支給され、一方、障害基礎年金の子の加算は支給停止になります。
つまり、改正を機に年金の内訳が変わります。また、加算額は改正を機に1.2倍になります。
③障害基礎・厚生年金の受給権者で障害基礎年金の子の加算がされている場合
改正前から障害厚生年金と障害基礎年金を受給し、障害基礎年金の子の加算がされている場合、2028年4月分から障害厚生年金に子の加給年金が加算された額になり、代わりに障害基礎年金の子の加算額は支給停止になります。
改正後の1.2倍の額が適用されます。
子の加給年金・加算額の国内居住要件
2028年4月1日改正で子の加算制度については、加算対象となる子の国内居住要件が加わることになります。
しかし、改正施行時に既に加算がされていて国内に住所がない場合には適用されず、引き続き加算されます。
ただし、施行日以後になってからその子が国内に住所を有するようになり、さらに国内に住所を有しなくなった場合は、経過措置は適用されません。
その場合、国内に住所を有しなくなった月の翌月分から国内に住所を有するに至った月分まで、加算部分は支給停止されます。
受給する人の不利には取り扱わない
以上のとおり、子の加算制度の経過措置について取り上げました。
改正の施行が近づいてくるにつれ、加算対象となるかどうか、金額が変わるかどうかのご相談も増えてくると予想されますが、今回取り上げました内容からして、「改正によって不利には取り扱わない」ことにはなると言えるでしょう。
なお、老齢厚生年金の配偶者加給年金については2028年4月より加算額が1割縮小されることになりますが、改正前からの老齢厚生年金の受給権者に加算される配偶者加給年金(改正前の額)は改正後も引き続き加算されます。
その場合は改正施行日を迎えても改正後の額(1割減)になりません。
こちらも合わせてご理解いただければと思います。
改正点についてはまだ明らかになっていない点もありますが、何か情報が得られましたらまた提供させていただきたいと思います。
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【FP相談ねっと・五十嵐義典 これまでの実績】
●FP個別相談、金融機関の相談会等含め年金相談は合計6000件以上経験。
●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、企業年金基金担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向け、大学生向けなど。㈱服部年金企画講師。
●執筆は通算550本以上!『週刊社会保障』(「スキルアップ年金相談」「年金相談のトビラ」、法研様)、月刊『企業年金』(「知って得!公的年金&マネープラン」、企業年金連合会様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「MONEY PLUS」(マネーフォワード様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「現代ビジネス」(講談社様)、「THE GOLD ONLINE」「THE GOLD 60」(幻冬舎ゴールドオンライン様)、「あなたのお金と暮らしのそばに。ハマシェルジュ」(横浜銀行様)、「よるかぶラボ」(ジャパンネクスト証券様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、「セゾンのくらし大研究」(セゾンファンデックス様)。その他監修本・著書として、FUSOSHA MOOK『定年前後に得するお金の手続き』(扶桑社様・共同監修)、『50代からの戻るお金・もらえるお金』(ワン・パブリッシング様・共同監修)、『DCプランナー1級合格対策問題集』『DCプランナー2級合格対策問題集』(経営企画出版・共著)。
●取材協力先は『日本経済新聞』『日経ヴェリタス』(日本経済新聞社様)、『読売新聞』(読売新聞東京本社様)、『プレジデント』(プレジデント社様)、『女性自身』(光文社様)、『SPA!』(扶桑社様)。その他「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日様)放送用資料提供、「公的年金制度入門」(アフラック様)動画出演。
●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。日本年金学会会員。
※2024年7月までは井内 義典(いのうち よしのり)名義。