小川 洋平

歴史的な円安、これからどうなる・・・?

こんにちは(^^)

経営者の理想を実現する資産形成のプロ、ファイナンシャルプランナーの小川です。

一時期1ドル=150円にも迫る勢いだった円安もひと段落し、140円を下回る程度で落ち着いてきましたね。

歴史的な円安と呼ばれる昨今、中には「日本の国力の衰退」といったことや「アベノミクスの失敗のせい」といった論調もあります。

まぁ、広義で捉えればそうとも言えるのかとは思いますが、長期的な為替の動きを見ていると比較的わかりやすいものです。

今回はそんな長期の為替の動きについて解説していきたいと思います。

1.まずは金融政策を知ろう!

為替を語るにあたり、まず知っていただきたいのは金融政策です。

経済政策には

①金融政策

②財政政策

③分配政策

があり、それぞれ目的に応じて使い分けていきます。

アベノミクスの「第一の矢」として「異次元の金融緩和」「大胆な金融緩和」と言われる政策は景気向上のための政策です。財政政策は第二の屋の機動的な財政出動のことを言い、政府が需要を創出したり、成長分野に投資することで景気の刺激などの効果があります。また、分配政策とは税金や社会保険の仕組みを使い、格差の是正のために用いられています。

中学校の公民で習うことですが景気の悪いときは中央銀行(日本では日銀)が緩和政策、つまり世の中の銀行にお金をたくさん増やす政策を行います。

銀行に預金が増え、銀行は低コストで資金調達が可能になるため企業や個人に融資する金利が下がり、融資が活発になるなどお金が流通しやすくなり景気が良くなるというプロセスです。

反対に、金融の引き締めは景気が良いときに景気が過熱するのを防ぐために世の中のお金の流通量を減らします。

こうやって景気をコントロールしていくのが中央銀行の仕事です。

まずはこの基本を認識しないことには経済政策というものを語れず、誤った方向に話が行ってしまいますのでこの基本中の基本を押さえておきましょう。

そして、そのお金の流通量は「マネタリーベース」という言葉で表されます。

2.マネタリーベースと為替の関係

さて、それではそのマネタリーベースによって過去の為替がどうなってきたのかを考えてみましょう。

図は2000年1月をベースにした日米のマネタリーベースの推移です。

図表:日本銀行、FRB(アメリカ中央銀行)HPのデータを利用し作成しています。

青い線がアメリカのマネタリーベース、そしてオレンジ色の線が日本のマネタリーベースです。

これまでの推移を見てみてると、2008年のリーマンショックの直後に米国では一気にマネタリーベースを増やしていることがわかりますね。

一方、同時期の日本は少しずつ緩和を行っているのはわかりますが、アメリカの規模に比べると変化がよくわからないようなレベルですね。

この時の日本の為替は、1ドル=80円台の円高な状態でしたがその理由はこれです。

そして、その後70円台まで突入し、一時期は「1ドル=50円になり日本の製造業は壊滅的に」と予想する専門家もいるくらいでした。

今の「1ドル=360円にまでなる」と言う円安の予想と似てますね。

そして、米国から遅れること4年、やっと日本もマネタリーベースを大幅に増やし始めたのですが、これがアベノミクス第一の矢です。

当時このアベノミクスの量的緩和は「アベノリスク」と言われることもあり、「円の価値が暴落するリスクがある」と言われていましたが、そもそもお伝えしていた通り不景気のときに金融緩和を行うということは当たり前の政策であり、アベノミクスの金融政策によってやっとアメリカと並び景気回復へと向かい、そして過去の平均的な為替相場に戻っていったという経緯があります。

アベノミクスの金融緩和政策を批判する声も多いのですが、このように日米のマネタリーベースを比較すると大体同水準になっているのがわかりますね。

だからこそ大胆な量的緩和を行ってきても、円安が異常に進行するようなことが無かったわけですね。

そして、最近ではコロナ禍から需要が回復し、物価上昇が進むアメリカにおいて利上げ(中央銀行から市中の銀行が資金を調達する金利)が引き上げられ、また物価の上昇を抑えるために緩和縮小に政策を転換していますね。

また、その中央銀行の利上げの影響、マネタリーベースを減らしたことにより米ドル預金、米国債等の金利が上昇し、10年国債を比較すると4%近くもの金利差が開いており、金利が高い米ドルに人気が集まり円安になっているということになります。

つまり、昨今の円安はよく言われているように日米の金利差と、マネタリーベースによって起きていると考えるのが妥当ですね。

こうやってマネタリーベースを比較すると、長期的な為替の決まり方がわかってくるのではないでしょうか。

そして、アベノミクスの金融緩和政策はそもそも教科書通りの政策であり、アメリカのマネタリーベースを見れば日本もリーマンショックの直後にもっと早く始めるべきだったと言えるのがわかりますね。

アベノミクスの失敗でも無ければ日本の国力の衰退ではありません。

ただし、広義で言えばアベノミクスの失敗、国力の衰退とも言えますね。

安倍政権後期でようやく日本も僅かに物価上昇を始める結果になりましたが、他の先進国の物価上昇率と比較するとそのペースは遥かに遅く、アベノミクスが目指していたデフレ脱却にはまだまだ及ばない状況でした。

アベノミクスが上手くいき、再び経済が成長基調になっていれば世界的な物価上昇に対して日本も賃金の上昇、年金額の上昇があったために昨今の物価高でも負担は少なかったかもしれません。例えば、消費税増税を凍結していた、また財政支出をもっと増やしていたなど、こういった政策を行っていれば直接的に民間にお金を流すことができるため効果は大きかったと考えられます。

そういった意味では日本の国力の衰退とも言えますし、アベノミクスの失敗とも言えることかもしれませんね。

ただし、量的緩和は米国と同等のペースで行わなければいつまでもリーマンショック~欧州経済危機の影響から脱却できなかったこと、不況時の経済政策としては教科書通りの政策であり、決して間違った政策ではないことは強くお伝えしておきます。

また、利上げをするには景気の過熱を抑えることが条件ですから、コロナ禍を早々に終わらせなければ利上げなどしていいはずもありません。コロナ対応の各国との違いも日本が利上げしない、金融の引き締めを行うことができない大きな要因の一つと考えられるでしょう。

3.日本が利上げ、緩和縮小を行わない理由は?

昨今において、各国が緩和縮小、引き締め、利上げに踏み切っている中、日銀の黒田総裁は「緩和を継続する」と金融緩和の継続を表明しました。

これに対して「円安に対策する気は無いのか」「インフレを抑えなければならないのではないのか」という批判の声もあります。

しかし、既にお伝えした通り、景気が悪いときに金融緩和を行うことは教科書通りの政策です。

世界各国で利上げ、緩和縮小に踏み切っているのはもう「WITHコロナ」が世界のスタンダードになり、世界ではもうマスクをせずに経済が正常化しているためであり、すでに需要が回復している状況です。

日本とは全く状況が異なり、世界では景気の過熱を抑える金融政策が必要だから行っているのです。

日本においては「利上げができない」というよりも「利上げ、引き締めを行うべき状況ではない」というのが正解です。

日本の物価高は単なる輸入の物価高ですので、金融を引き締めに転じても円高にはなるでしょうがあまり意味が無いと言えます。対して、金融の引き締めの影響によって国内の経済が冷え込んでしまってはもっと酷い状況になってしまうわけです。

また、物価高の要因には円安も勿論影響はしていますが、それ以前に原油価格、小麦の価格など、「コモディティ」と呼ばれるものの価格がすでに上がっていることが大きな要因です。






グラフ:世界経済のネタ帳 より

こちらの価格の推移をみると原油価格や小麦の価格は2倍以上にもなっています。昨今の物価高は円安が要因というよりもこちらの商品価格そのものの価格が上がっていることが要因ですね。

対して、円安による影響は、確かに物価高にも影響はしていますが、輸出企業にとってはプラスであり、日本の「第一次所得収支(外国から得られる利子、配当から支払う利子、配当を差し引いた差額)」は2021年においては過去最高、2022年においてはそれを更に上回り上半期で既に18兆円にもなり、例年の第一次所得収支に迫る勢いです。

、「第一次所得収支 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度 平成30年度 令和元(平成31)年度 我年蛋健美 到幸号 今和2年 令和3年度」というテキストの画像のようです

円安は物価上昇に影響はしますが、それによって輸出業の利益、外国資産からの利子、配当が増えるために必ずしも悪とは言えないものです。

①日本国内は金融の引き締めを行う、緩和の縮小を行うような経済の状況ではない

②物価高の主要因は円安ではなく外貨建てでの商品価格の値上がりが原因であり、金融の引き締めによる経済への影響と対比して考えるべき

③円安によるメリットもある

以上のような理由で日銀の判断は正しかったと言えるでしょう。

4.今後の為替の見通しは?

予めお伝えしておきますと、為替が今後どうなるかは誰にもわかりません。

従って、ここでお伝えすることも今後どうなるかを予想、断定するものではありません。

その前提で、判断材料として提供させていただきますと・・・

①アメリカ国債の金利が右肩下がりになっている

こちらはアメリカ国債の満期期間ごとの金利のグラフです。

6M=6カ月か月後に満期が来る国債  1Yは1年後、2Yは2年後というように、満期までの期間を表しています。

通常、国債の金利というものは満期までの期間が長くなればなるほど不確実性も高くなるために金利が高くなり、右肩上がりにカーブを描く形になります。

このカーブを「イールドカーブ」と言います。

しかし、これが現状ではどちらかと言えば右肩下がりでフラットに近い状態になっています。

この現象が起きるのは、昨今の金利が一時的なものであり、今後は低下していくとみられているために起きる現象です。

仮に今10年、20年といった満期までの期間が長い国債を買えば、その間現在の高い金利が固定されるために大きな利益を得ることができます。

写真の説明はありません。

例えば、こちらはとある証券会社の取引ページでみた、22年後の8月に満期が来るアメリカ国債です。

参考買い付け単価が40.59%となっていますが、要するにこれは満期になったら1万ドル返してもらえる国債を、その40.59%の4,059ドルで買うことができ、22年後には2.5倍になって返してもらえるということです。

対して、1年や2年で満期が来る国債を1万ドル買っても、5%で運用しても1年で500ドル程度にしかならず、その後に金利が下がっていれば以後は低くなった金利が適用されます。

ですので、今後金利が下がると見込まれているときには短期間で満期が来る国債の方が金利が高く、長期の国債の方が金利が低くなるのです。

もちろん、必ずそうなるというわけではありませんが、少なくともアメリカ国債の市場ではそのように判断されているということです。

つまり、金利が今後低下していくと考えているのであれば、日米間での金利差は縮まり、元の水準に戻ると考えるのが通常です。

また、アメリカは現在インフレを抑えるために金融の引き締めを行っていますが、アメリカの景気の過熱、インフレが収まれば金融の引き締め、利上げをやめることになります。

すると、日米のマネタリーベースの伸びがこれまでと同程度になり、円高へと向かっていくことも考えられます。

また、長期的な為替に影響する指標として、経常収支があります。

経常収支とは、簡単に言うとその国が貿易や投資などで得た収入と支出の差額のことで、日本は過去40年一貫して黒字を保っています。

2022年に入り物価高の影響で黒字幅は少なくなる予測ではありますが、同時にアメリカの経常収支も見てみましょう。(円換算した場合には円安であるために大きくなります)

このように、日本と同様にアメリカも大きくマイナスしています。

また、アメリカの場合は日本とは逆に過去40年ほどずっと赤字続きな状態です。

この経常収支という指標が黒字だから良い、赤字だから悪いというわけではありませんが、黒字だと通貨高に

なりやすく、赤字だと通貨安の方向になりやすいという性質があります。

と、それ以外にもあらゆる条件が重なり為替は変動しますので、こういった指標だけでは判断はできませんが、しっかり元の水準に戻る要素が

あるということはできますね。

5.慌てず、基本に忠実に

これらのことから、今後円高に戻る可能性も考えることができます。

こういった指標も観察しながら、為替の動きを読むのも良いのですが、「わからない」というのが結論です。

ですので、「このまま円安が続く」と思って慌てて外貨建て預金を行うのはやめましょう。

1年後に5%増えたとしても、それ以上に円高に戻ったらせっかく金利が高くても損失です。

だからこそどっちに転んでも良いように、長期分散投資の基本に沿って考えるのが良いでしょう。

今回紹介したようなアメリカ国債であれば今の高い金利の恩恵を受けることもできるため良いでしょうし、投資信託の商品の中には「為替ヘッジ」といって為替の変動の影響をほぼ受けずに投資できる商品もあり、それでいながら現在の国債や債券の高い金利を活かせる商品もあります。

慌てず、落ち着いて知識を得て、ご自分にとって一番の選択肢が何なのかを考えるのが大切です。

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