ご相談者様データ
(お名前)高橋真澄さん(仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)父70代、母70代、兄(別居)
相談しようと思ったきっかけ
70代の父が脳梗塞で倒れました。幸い命は助かりましたが、左半身に麻痺が残り、現在は病院でリハビリを続けています。
元気なころは、昔気質ではありましたが、とても頼りになる父でした。それが今では、思うように身体を動かすこともできず、着替えや移動にも人の手を借りなければなりません。
リハビリを頑張っている父の姿を見ると、かわいそうでたまりません。以前の父とは違う姿を受け入れることができず、どんな言葉をかけたらよいのか、これからどう接していけばよいのか分からなくなっています。
母は毎日のように病院に通い、父のそばで看病しています。母の疲れも心配です。兄もいますが、今後のことをどう話し合っていけばよいのでしょうか。
父親の変化をすぐに受け入れられなくても大丈夫。まずは自分の気持ちを整理しましょう
突然、親が病気になり、これまでとは違う姿を目の当たりにすると、子どもとして戸惑うのは当然です。
親はいつまでも元気でいてくれるもの、困ったときには頼れる存在。そんな思いがあるからこそ、身体が不自由になった父親の姿を見て、悲しくなったり、かわいそうで見ていられなくなったりするのでしょう。
これは、親の老いを受け入れる過程でもあります。
ただ、忘れてはいけないのは、一番つらいのは、これまで当たり前にできていたことができなくなったご本人だということです。
父親も、自分の身体の変化に戸惑い、悔しさや不安を感じているかもしれません。娘さんが無理に明るく振る舞う必要はありませんが、過度にかわいそうだと思うのではなく、父親が今できることを認め、本人の気持ちや意思を尊重して接していきたいものです。
リハビリは長い道のりになることもあります。焦らず、少しずつできることが増えていく過程を一緒に見守っていきましょう。
退院後の暮らしを具体的に考えておく
次に考えたいのは、退院後の生活です。
自宅に戻ることを考えるなら、今までと同じ住環境で暮らせるとは限りません。身体の状態に合わせて、家の中を見直す必要があります。
例えば、ベッドから起き上がることや車いすへの移乗を助ける福祉用具、トイレや廊下の手すり、浴室で使う入浴用いすなどが考えられます。玄関や室内の段差を解消したり、扉を引き戸に変更したりする住宅改修が必要になることもあります。
こうした福祉用具の貸与・購入や住宅改修には、介護保険を利用できる場合があります。要介護認定の申請や利用できるサービスについて、早めに病院の相談窓口やケアマネジャーに確認しておきましょう。
また、退院後もリハビリを続けることが大切です。訪問リハビリや通所リハビリなど、生活環境に合わせた方法があります。
食事の際に飲み込みにくさがある場合は、嚥下機能の評価や訓練についても医師や言語聴覚士に相談してみましょう。家族だけで判断せず、専門家の助言を受けることが重要です。
ケアマネジャーを頼り、家族だけで抱え込まない
介護が始まると、家族は何をどこまで自分たちでやればよいのか分からなくなりがちです。
そんなときに頼りになるのがケアマネジャーです。本人や家族の希望、身体の状態、住環境などを踏まえ、必要な介護サービスを組み立ててくれます。
ケアマネジャーに任せきりにするのではなく、家族も困っていることや希望を具体的に伝え、相談しながら進めていきましょう。福祉用具の選定では専門相談員、身体の動作については理学療法士や作業療法士など、それぞれの専門家の力を借りることも大切です。
また、身体の麻痺だけでなく、脳梗塞の後遺症として気持ちの落ち込みや意欲の低下、認知機能などの変化が現れることもあります。本人の様子に気になる変化があれば、医師に相談しましょう。障害者手帳の取得や障害福祉サービスなどについても、必要に応じて医療ソーシャルワーカーや自治体の窓口に確認しておくとよいでしょう。
母親の負担にも目を向け、兄と一緒に支える
もう一つ忘れてはいけないのが、母親の存在です。
毎日そばで看病している母親も、父親の病気を受け止めきれない気持ちや、これからの生活への不安を抱えているかもしれません。娘さん自身もつらいと思いますが、母親は日々の介護を担うことになる可能性もあります。
兄にも現状を伝え、退院後の生活について家族で話し合っておきましょう。病院への付き添い、手続き、住宅環境の整備、母親の休息時間の確保など、できることを分担することが大切です。
介護する家族も、疲労やストレスが重なると心身の不調をきたすことがあります。本人だけでなく、家族も無理をしていないか気にかけてほしいと思います。
変わったのは身体であって、父親そのものではない
ここで、少し視点を変えてみましょう。
もし、お孫さんがいるなら、お孫さんは今のおじいちゃんをどのように見ているでしょうか。
以前と身体の様子が変わっても、大好きなおじいちゃんであることに変わりはありません。手を握ったり、話しかけたり、いつもと変わらず甘えたりするかもしれません。
大人はどうしても、以前の姿と比べてしまい、できなくなったことや失われたものに目が向きがちです。でも、子どもは案外素直に、その人自身を見ているのかもしれません。
脳梗塞によって身体の機能や見た目が変わっても、その人が積み重ねてきた人生や家族への愛情、父親としての存在まで変わるわけではありません。
ときには、子どものまっすぐな目線に学ぶことも大切です。以前と同じようにはできなくても、今の父親と一緒に笑ったり、話したり、触れ合ったりする時間を大切にしてほしいと思います。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親が病気になったり、身体が不自由になったりすると、子どもは親の変化を受け入れることに時間がかかるものです。
しかし、親の老いを受け入れることは、親を諦めることではありません。今の父親にできることを一緒に考え、これからの暮らしを整えていくことも、家族にできる大切な支援です。
介護保険や医療、福祉の専門家を頼ることは、決して家族の役割を放棄することではありません。むしろ、家族が長く無理なく支えていくために必要なことです。
これから先、思い通りにいかないこともあるでしょう。それでも、家族みんなで少しずつできることを考えていけばよいのです。
高齢者の暮らしを守るのは、制度や法律だけではありません。家族が互いを思いやり、支え合うことも大切なのだと思います。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 内田英子FP

