自社株が資産の40%を占めています――47歳上場企業部長が”エンロンの教訓”から学ぶ、持株会との正しい距離感

この記事を書いた人
青山 創星

会社と個人ダブル節税効果の国の制度確定拠出年金導入を銀行での運用経験をもとにフルサポート!!!

ご相談者様 DATA

【年齢】47歳

【職業】東証プライム上場・化学メーカー管理職(年収850万円)

【性別】男性

【家族構成】妻44歳(専業主婦)、長男17歳、長女14歳

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

入社以来25年間、従業員持株会で毎月2万円を積み立ててきました。会社からの奨励金が10%あるので、実質1万8,000円で2万円分の株を買えるのがお得だと思っていたんです。ところが、気がつけば持株会の評価額が1,800万円になっていて、他の金融資産——預金800万円とNISA600万円——と合わせた総資産の約40%を自社株が占めているんですね。
先日、大学受験を控えた長男が経済学の授業でエンロン事件を学んだらしく、夕食の時に「パパ、うちの会社が潰れたら給料も株も全部なくなるよ」と言ってきたんです。その瞬間、背筋が寒くなりました。
会社に愛着はありますし、業績も悪くない。でも、息子の一言が頭から離れなくなり、専門家の意見を聞きたいと思いました。

ご相談内容

【ご相談でお話しした内容】

目次

今回は、従業員持株会による自社株の保有が資産の半分以上を占めてしまった47歳の会社員の方からのご相談です。長男の鋭い指摘をきっかけに、「集中リスク」と「二重リスク」の怖さに気づかれたケースです。

17歳の息子が見抜いた「二重リスク」の本質

ご相談者様が最初にお話しくださったのは、ご長男の言葉がきっかけだったというエピソードでした。「パパ、うちの会社が潰れたら給料も株も全部なくなるよ」——この一言は、金融の専門家が口を酸っぱくして伝えている「集中リスク」の核心を、見事に突いています。

ご相談者様の資産構成を整理させていただきました。

  • 自社株(持株会) :1,800万円
  • 預金 :800万円
  • NISA :600万円
  • 総資産 :3,200万円

このうち自社株が占める割合は約56%(1,800万円÷3,200万円)になります。ご相談者様は「約40%」とおっしゃっていましたが、実際に計算してみると資産の半分以上が自社株です。

二重リスクとは何か

さらに重要なのは、ご相談者様の収入源も同じ会社であるということです。これが「二重リスク」と呼ばれる状態です。

二重リスクとは何か、会社の業績が悪化した場合、以下の2つが同時に起こりえます。

  • 給与所得の減少または喪失 :減給、ボーナスカット、最悪の場合はリストラ
  • 自社株の価値下落 :株価が半分になれば、1,800万円が900万円に

「収入」と「資産」の両方が同じ船に乗っている状態は、船が沈めばどちらも一緒に海の底に沈んでしまうことを意味します。「会社を信じること」と「家族の将来を会社の株価に賭けること」は、分けて考える必要があります。

エンロンの教訓を数字で振り返る——日本の事例も含めて

エンロン事件(2001年)の衝撃

ご長男が授業で学んだというエンロン事件について振り返りましょう。米国のエネルギー大手エンロンは、かつて「最も革新的な企業」に6年連続で選出されるほどの優良企業でした。

ところが、2001年に粉飾決算が発覚。株価は最高値の約90ドル(2000年8月)から、わずか約1年4ヶ月後の2001年12月の破産申請時には26セント(約0.3%)まで暴落しました。問題は株価だけではなく、従業員の年金資産の約62%がエンロン株で運用されていたため、多くの社員が老後資金のほとんどを失ったのです。

日本でも起きた「自社株集中」の悲劇

日本でも、2015年に東芝で不正会計問題が発覚しました。500円前後だった株価は不正会計発覚直後(2015年5月)にストップ安となり400円台まで急落。さらに下落が続き2015年末には200円台、2016年2月には最安値155円まで暴落しました。その後も業績悪化(米国原子力事業の巨額損失等)が続いて東証2部に降格しました。持株会に加入していた社員の中には、大きな含み損を抱えた方も少なくありませんでした。

従業員持株会は上場企業の約8割が導入しており、身近な資産形成手段ですが、「気がつけば1社に集中しすぎている」ケースが非常に多いようです。

共通する教訓

これらの事例に共通するのは、「どんな優良企業でも予測不能な事態は起こりうる」という点です。

  • 「優良企業」と評価されていた時期に、従業員が自社株を大量に保有していた
  • 不正や業績悪化は、内部にいる従業員でさえ予測できなかった
  • 給与と資産の両方にダメージを受けた

持株会の奨励金は本当に「お得」なのか

ご相談者様がメリットと感じていた「10%の奨励金」について、数字を使って詳しく分析しました。

奨励金のしくみを整理する

ご相談者様の場合、毎月2万円の拠出に対して2,000円の奨励金がつきます。つまり、「入口の時点で10%のリターン」が確定していると考えられ、これは非常に魅力的な制度です。

25年間の奨励金累計を計算する

25年間で受け取った奨励金の累計額は約60万円です。確かに小さな金額ではありません。

奨励金メリットには「非対称性」がある

しかし、ここで重要なのは「奨励金は入口で一度きり、株価リスクは保有期間中ずっと続く」という点です。

  • ケース1:株価が20%下落した場合、1,800万円が1,440万円になり、360万円の含み損が発生します。これは25年分の奨励金の6倍です。
  • ケース2:株価が50%下落した場合、900万円の含み損となります。これは奨励金累計の15倍に相当します。

奨励金は「保険」ではない

10%の奨励金は、株価が9%下落しただけで帳消しになってしまいます。奨励金がお得だから続けるのではなく、資産全体のバランスを考えた上で活用する視点が必要です。

比較項目金額(概算)
25年間の奨励金累計(メリット)60万円
株価が20%下落した時の損失360万円
株価が50%下落した時の損失900万円

「総資産の10%」を目標にした段階的売却計画

「総資産の5~10%」以下をご提案

詳しくは紙面の都合上省略しますが、ご相談者様には個別株への集中度は総資産の5〜10%以下に抑えることをご提案させていただきました。自社株の場合は特に「二重リスク」があるため、より保守的に考えるのが望ましいでしょう。

現状と目標のギャップ

項目現在目標
自社株評価額1,800万円320万円
自社株比率56%10%

5年間の段階的売却プラン

一度に売却するのではなく、5年間かけて毎年200万円ずつ売却することをご提案しました。これにより、「税負担の分散」「売却時期の分散(高値・安値のリスク低減)」「心理的負担の軽減」が図れます。

売却時の税金について

売却益には20.315%の税金がかかります。ご相談者様の場合、年間200万円売却すると、年間の税額は約26万円程度と見込まれます。

売却代金の再投資先

売却代金は、NISAの成長投資枠を活用し、「全世界株式インデックスファンド」への再投資を優先します。これにより「1社集中」から「世界分散」へ切り替えることができます。

持株会を「やめる」のではなく「減らす」という選択肢

奨励金のメリットを活かす折衷案

持株会を完全にやめる必要はありません。拠出額を月2万円から5,000円に減額することで、奨励金のメリットは受けつつ、自社株の増加スピードを抑えることができます。

差額のつみたて投資

減額した差額の1万5,000円は、NISAのつみたて投資枠に回します。これにより、自動的に分散投資が進む仕組みを作ります。

この変更による効果

何もしなければ5年後の自社株比率は60%に達しますが、このプランを実行すれば24%まで低下させることができ、その先で目標の10%が見えてきます。

管理職として知っておくべきインサイダー規制

上場企業の管理職であるご相談者様が最も注意すべきは、「インサイダー取引規制」です。

インサイダー取引とは

会社の「重要事実」を知りながら、公表前に株式を売買することは法律で禁止されています。刑事罰や懲戒解雇など、極めて重い罰則があります。

自社株売却時の注意点

  • コンプライアンス部門への事前相談
  • ブラックアウト期間(売買禁止期間)の確認
  • 売却届出の提出

計画的売却

事前に売却計画を定めておき、機械的に執行することで、恣意的な判断を排除できます。5年間の段階的売却プランは、規制遵守の観点からも合理的です。

「会社を愛する」ことと「会社に賭ける」ことの違い

25年間の積み立ては会社への愛着の証ですが、「会社を愛すること」と「家族の将来を会社の株価に賭けること」は別です。17歳の息子さんの言葉は、会社への不信ではなく、家族を守るための「備え」を促す愛ある問いかけだったはずです。

分散投資は「不信」ではなく「責任感」の表れです。給与という人的資本を会社に預けているからこそ、金融資産は分散するのが合理的なのです。

ご相談を終えて

ご相談者様からの感想

正直、持株会を減らすことに後ろめたさがありました。でも、「会社を愛することと、会社に賭けることは別の話」と言っていただいて、ストンと腑に落ちました。早速、拠出額の減額手続きと売却計画の相談を始めました。5年後に息子に「ちゃんと分散したよ」と報告できるのが楽しみです。

FPからのコメント

従業員持株会は上場企業の約8割が導入しており、身近な資産形成手段ですが、「気がつけば1社に集中しすぎている」ケースが非常に多いです。ご自身の総資産に占める自社株割合を定期的にチェックし、20%を超えているようであれば見直しを検討してみてください。

この記事を書いた人
青山 創星

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